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大嫌い!って100回言ったら、死ぬほど好きに変わりそうな気持ちに気付いてよ…。  作者: 菊池まりな


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第79話 雨の日の約束

金曜の夜。

 仕事帰りの朱里は、駅へ向かう途中で、ふと冷たいものが頬に当たるのを感じた。


 ──ぽつ、ぽつ。

 空を見上げると、雲の隙間から小さな雨粒が落ちてきていた。


「えっ……傘、持ってないし……」

 朝は晴れていたのだ。

 まさか週末前の夜に、こんな不意打ちの雨が来るなんて。


 駅まであと数分。

 その距離が、妙に遠く感じる。

 立ち止まってスマホを開くと、通知に“傘マーク”が並んでいた。

 なんでこういう時に限って、天気予報見忘れるんだろう。


 小走りで近くの屋根のある場所へ避難しようとした、その時。


「中谷さん!」


 背後から名前を呼ばれて、思わず振り返る。

 ビルの角から、黒い傘を差した嵩が歩いてきた。

 シャツの袖を少し折り、片手でスーツのカバンを持つ姿。

 雨に濡れた髪が、街灯の下で少し光って見えた。


「やっぱり……傘、持ってないですよね」

「……どうしてわかったんですか」

「中谷さん、朝“晴れ女だから大丈夫です”って言ってたから」

 そう言って苦笑する嵩に、朱里は少し顔を赤くした。


「……もしかして、わざわざ戻ってきたんですか?」

「はい。駅の前で見かけて、気になって」

「そ、そんなわけ……」


 反論しかけたけど、嵩の傘が静かに差し出される。

 ふたりの距離が、自然と近づく。


「ほら、入ってください。風、強くなってきた」

「……ありがとうございます」


 肩が触れるか触れないかの距離。

 雨音と、ふたりの足音だけが響く。

 こんなに近いのに、心臓の鼓動が遠くで鳴っているような気がした。


「この前の映画……楽しかったですね」

 嵩がふと口を開いた。

 朱里はびくっと肩をすくめる。

「え、ええ。まあ……普通に」

「普通、ですか」

「そ、そういう意味じゃなくて!」

 慌てて言い直す朱里を見て、嵩はふっと笑った。


「中谷さんって、ほんとに“素直じゃない”ですよね」

「……そんなことないです」

「いや、あります」

 からかうような声。

 朱里は俯いて、小さく呟いた。


「……じゃあ、今度はちゃんと素直に言います」

「え?」

「その……また映画行きたいです」


 言った瞬間、嵩が立ち止まる。

 朱里の言葉が、雨の音に紛れずに届いてしまったから。


「……了解です」

 嵩の声が、少しだけ柔らかく響いた。

 傘の中、朱里はそっと顔を上げる。

 ふたりの影が、街灯の下でひとつに重なっていた。


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