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大嫌い!って100回言ったら、死ぬほど好きに変わりそうな気持ちに気付いてよ…。  作者: 菊池まりな


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第77話 夜風と告白未満

映画館を出ると、夜風が頬をすり抜けていった。

 朱里は両手をコートのポケットに突っ込み、少しうつむきながら歩く。

 隣を歩く嵩の足音が、一定のリズムで耳に響いていた。


「風、冷たいな」

 嵩がぼそりと言う。

「そ、そうですね……でも、気持ちいいです」

 朱里は、さっきまでのドキドキを誤魔化すように笑った。


 ──“理由、言ったら来なかったかもしれないから”

 あの言葉が、まだ胸の奥でくすぶっている。


 理由って、なに?

 “仕事の後輩だから”? “たまたま空いてたから”?

 それとも……。


 横顔をちらりと見た。

 嵩は、信号の青を待ちながらポケットの中でスマホをいじっている。

 その横顔は、スクリーンの光よりも穏やかで、でも、少し遠く見えた。


「……あの、今日の映画、どうでした?」

 自分でも驚くほど、声が上ずる。


「面白かった。意外とラストが熱かったな」

「うん、あの……ヒロインが最後に、“あなたのこと、大嫌い”って言ってたの、あれ……」

「“大嫌いなほど好き”って意味だろ?」

 嵩が、自然に返す。

 朱里の心臓が跳ねた。


「そ、そう、ですよね……」

「中谷も、似たようなこと言うじゃん。大嫌いって」

「えっ!? そ、それは、違っ──」


 否定しようとした瞬間、信号が青に変わった。

 嵩は軽く笑って先に歩き出す。

 朱里は追いつけず、数歩遅れて足を動かした。


 夜風が、少し冷たく感じる。

 でも、それ以上に胸の奥が熱い。

(大嫌い、なんて……ほんとは、もう、言えないよ)


 歩道橋の上、二人並んで見下ろす街の明かり。

 朱里は、小さく息を吸いこんだ。


「……あの、嵩さん」

「ん?」

「次は……もっと静かな映画、にしません?」

「苦手克服しないのか?」

「べ、別に、そういう意味じゃ──!」


 からかうような嵩の笑み。

 朱里は顔をそむけ、夜風に紛れてつぶやいた。


「……大嫌い。ほんと、ずるい人。」


 でもその声は、きっと風に乗って、彼の耳にも届いていた。

 嵩の横顔が、ふっと優しくほころんだ気がした。


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