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大嫌い!って100回言ったら、死ぬほど好きに変わりそうな気持ちに気付いてよ…。  作者: 菊池まりな


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第76話 スクリーンの横顔

映画館の暗闇に、朱里の心臓の音だけがやけに大きく響いていた。

 スクリーンでは派手なカーチェイス。爆音が鳴るたびに、彼女の肩がびくっと揺れる。


「……大丈夫か?」

 隣の嵩が、小さく囁いた。

 その声に、朱里は反射的に首を横に振る。


「だ、だいじょぶ……!」


 ほんとは全然大丈夫じゃない。

 なのに「怖い」と言えないのは、あの一言が頭の中で繰り返されるから。

 ──なんで、私なの?

 自分で言ったくせに、答えを聞くのが怖くてたまらなかった。


 嵩は映画のチケットをもらったから、と気軽な感じで誘ってくれた。

 でも、あの時の「なんで私なの?」という言葉を、彼がどう受け取ったのか──そのことがずっと、心の奥でひっかかっていた。


 スクリーンの光に照らされた嵩の横顔を、朱里はこっそり盗み見る。

 静かに組まれた腕、落ち着いた視線。

 同じ空間にいるだけで、息が詰まりそうになる。


(……また、同じこと聞いちゃいそう)


 そのとき、ポップコーンを取ろうとした嵩の手が、朱里の指先にかすかに触れた。

 電気でも走ったみたいに、体が固まる。

「……悪い」

 嵩が小声で言い、指先を引っ込めた。

 朱里は慌てて首を振る。


「い、いえっ!」


 小さな声がスクリーンに吸い込まれていく。

 鼓動の音だけが、やけに響いていた。


 ──映画が終わり、館内に明かりが戻る。

 朱里はほっと息をついた。


「……アクション映画って、思ったより体力使うね」


「苦手なの、わかってて来たんじゃないのか」


「べ、別にっ。誘われたから来ただけだし」


「……なんで俺が誘ったかわかってて?」


「え?」


 朱里が顔を上げると、嵩は少しだけ口元をゆるめた。

 困ったような、でもどこか優しい笑み。


「“なんで私なの”って、前に言ってただろ。

 ……理由、言ったら来なかったかもしれないから。」


「え、ちょ、なにそれ……!」


 朱里の顔が一瞬で真っ赤になる。

 嵩は「行くぞ」とだけ言って先に歩き出した。


 彼の背中を追いながら、朱里は自分の胸に手を当てた。

(もう……ずるい。そういう言い方するの、ほんとずるい)


 外に出ると、夕暮れの風が頬をなでた。

 スクリーンの光よりもずっとまぶしい、嵩の横顔が隣にあった。



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