第7話 親友の診断
土曜の午後。
朱里はカフェの片隅で、カフェラテをかき混ぜながらため息をついた。
向かいの席でケーキを頬張っていたのは、大学時代からの親友・田中美鈴。
朱里の表情をひと目見ただけで、彼女はあきれ顔になった。
「で、また“平田先輩大嫌い事件”ってわけ?」
「……事件じゃない。ただの事実」
「はいはい。中谷朱里さんの口癖、また出ました~。“大嫌い”って何回目だと思ってんの?」
「……さあ」
「私のカウントだと、もう余裕で60回は超えてるけど?」
朱里は思わずむせそうになった。
「ちょ、ちょっと、なんで数えてるのよ」
「親友としての義務。でね、60回中59回は顔がにやけてたから。“好きすぎて大嫌い”ってやつでしょ?」
「違う!」
即座に否定したが、耳が熱くなる。
美鈴はストローをくわえて、ニヤリと笑った。
「わかりやすっ。あんたさ、ツンデレっていうより、もはや呪いの儀式だよね。“大嫌い百回唱えたら愛が叶う”とか信じてんの?」
「信じてない!……でも」
言いかけて口をつぐむ。
美鈴は小さく肩をすくめた。
「ほら。そうやって素直になれないから、こじらせ女子って言われんのよ。好きなら好きって言えばいいのに」
朱里はストローを強くかみしめた。
「……だって、そんなの、似合わないでしょ」
「似合う似合わないの問題じゃないでしょ。言わなきゃ伝わんないの。あんたのその“強がりフィルター”が一番の敵なんだって」
美鈴の言葉が胸に刺さる。
だけど朱里は、結局いつものようにそっぽを向いてしまった。
「……いいの。私はこのままで」
「ほんっと頑固。まあ、見てて面白いから応援はするけどさ。こじらせすぎて手遅れになる前に、せめてリハビリくらいはしな?」
美鈴の茶化す声を聞きながら、朱里はカップの底に沈んだ泡を見つめていた。
心の奥では分かっている。
このままじゃダメだって。
それでも、口から出るのはやっぱり同じ言葉だった。
「大嫌い、なんだから」
まるで呪文みたいに。