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第65話 恋の勉強会

昼休みの社内カフェスペース。

私はコーヒーを片手に、ノートパソコンの画面を見つめていた。

……見つめてはいるけれど、まったく頭に入ってこない。


というのも、向かいのテーブルで、瑠奈と嵩が“例の話”をしているからだ。

仕事の相談──らしい。

でも、話しているトーンはどう考えても、業務報告じゃない。


「昨日の“勉強会”、すごくわかりやすかったです!

 平田先輩って、本当に説明上手ですよね」

「いや、瑠奈ちゃんが飲み込み早いだけだよ」


……“瑠奈ちゃん”て言ったよね、今。


コーヒーを飲む手が止まる。

思わず口の端が引きつった。

さりげなく聞き流すふりをしたけど、心の中では鐘が鳴っていた。

ドォォォン!って。


(ねぇ平田先輩、私のとき“中谷さん”って呼んでましたけど?)


私の脳内に、赤ペン先生が登場して訂正してくれそうだ。

──呼び方の差、減点100点。


「そういえば、今度の週末、また図書館で集まるんですよね?」

「うん。ちょっと応用問題を中心にやるつもり」

「じゃあ私、またカフェで勉強ノート作ってきますね!」


……カフェ。

……またカフェ。

(ねぇ、あなたたち、“図書館”より“カフェ”のほうがメインじゃない?)


もう心のツッコミが止まらない。

だけど、それを顔に出したら負けだ。

私は、涼しい顔でキーボードを叩くふりをしながら、美鈴にチャットを送った。


> 朱里:「ねぇ、美鈴。恋の勉強会って、何ページから始まるの?」

美鈴:「あー、そろそろ実践編入ってもいい頃じゃない?笑」




(実践編て……私まだ“入門書”すら読めてないのに!)


そのとき、嵩の声がふと聞こえた。

「中谷、今度のプレゼン資料、今日中に確認できる?」

「は、はいっ! もちろんです!」


慌てて振り向いた私の声は、少し裏返っていた。

瑠奈が小さく笑う。

嵩は気づいていない様子で、淡々と資料のフォルダを共有してくる。


──その自然体が、また腹立たしい。

どうしてそんなに“何も気づかない顔”が上手なんだろう。


「ありがとうございます。すぐ確認します」

私は平静を装いながら、ファイルを開く。

でも視界の端で、瑠奈が嵩に向けてふんわりと笑うのが見えた。


(……あの笑顔、反則すぎる)


胸の奥が、じんわりと熱くなる。

嫉妬とか不安とか、そんな言葉で片付けられない何か。

それでも私は、心の中でだけ、いつもの言葉をつぶやいた。


「大嫌い」──。


本当は、誰よりも好きなくせに。



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