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第6話 すれ違う言葉、重なる想い

翌朝。

昨日の雨が嘘のように晴れ渡り、街路樹の葉が朝日を浴びてきらめいていた。


朱里は少し早めに出社した。

まだ人の少ないオフィスでパソコンを立ち上げ、書類を整理していると、背後から声がした。


「おはようございます、中谷さん」


振り返ると、嵩が立っていた。

朝の光に照らされたその姿は、いつもより柔らかく見えて、朱里の胸がどきりと跳ねる。


「おはようございます……」


朱里は視線を落とし、キーボードを叩くふりをした。

けれど嵩は少し迷ったあと、彼女の机の横に立った。


「昨日……急に帰ってしまったから、気になって」


「あれは……」

言いかけて、朱里は口をつぐんだ。

本当は「八つ当たりしてごめんなさい」と言いたい。

でも、喉の奥で言葉が固まってしまう。


「もし、僕に何か至らないことがあったなら──」


「ち、違います!」

思わず声を上げてしまい、朱里は慌てて続けた。

「平田先輩が悪いわけじゃなくて……ただ、私が……」


言葉が途切れた。

続きは「好きだから」と告げればいいのに、それだけがどうしても出てこない。


嵩は朱里の様子を見て、少しだけ笑った。

「……なら良かったです。無理はしないでくださいね」


それだけ言って、自分の席へ戻っていく。


朱里は机の下で拳を握りしめた。

今なら──ほんの一歩、素直に近づけたかもしれないのに。


「……バカ」

小さくつぶやいて、顔を伏せる。


でも心の奥で、昨日よりも少しだけ前に進めた気がした。

「大嫌い」と口にする自分の中に、確かに「好き」が芽生えているのだから。


朱里は小さなため息をついてモニターに向き直った。

新しい一日が始まる。

それは同時に、彼女と嵩の関係が少しずつ変わっていく予感でもあった。


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