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第56話 恋の戦略会議

月曜の昼休み。

オフィスのカフェスペースで、朱里はカフェラテを前にため息をついていた。

その様子を見つけた田中美鈴が、トレーを片手にやってくる。


「また、わかりやすく落ち込んでるね。どうしたの?」


「……別に、なんでもない」


「“別に”って言葉、あんたが使うとだいたい“恋絡み”なんだよね」


図星を突かれて、朱里は小さく肩をすくめた。

週末のショッピングモールでの出来事──嵩と歩いていた時、偶然カフェで瑠奈と彼が話している姿を見かけた。

一瞬で胸が締めつけられた。

せっかく勇気を出して誘ったデートなのに、笑顔でいられなくなった自分が情けない。


「……美鈴、私って、やっぱり素直じゃないよね」


「いまさら?」

美鈴はあっけらかんと言い、ストローをくわえながらニヤリと笑った。

「で、今回はどう素直になれなかったの?」


「別に、なれなかったわけじゃ……」


「ほら出た、“別に”」


朱里は観念したように、モールでの出来事を話した。

嵩の笑顔、瑠奈の楽しそうな表情、そして自分の胸のざわめき。

黙って聞いていた美鈴は、話が終わると真顔で言った。


「それさ、完全に“恋の敗北フラグ”だよ」


「えっ」


「何も行動しないで拗ねてるだけじゃ、勝ち目ないって意味」


「……そんな簡単に言われても」


「簡単でいいの。やるのは“戦略”なんだから」


美鈴はノートを取り出し、いたずらっぽくページを開いた。

そこには大きく書かれたタイトル──

『恋の対抗作戦・第一段階』


「……なにこれ」


「決まってるでしょ。望月瑠奈に負けないための“行動計画”!」


朱里は目を瞬かせた。

美鈴はやる気満々でペンを走らせる。


「まず、瑠奈ちゃんは“素直で可愛い系”でしょ? なら朱里は“ギャップ路線”で攻めるの!」


「ギャップ路線……?」


「そう。仕事ではクール、でもプライベートではちょっと抜けてて可愛い──これ最強!」


「な、なんか……恥ずかしい」


「恥ずかしがってる暇ないって。恋はタイミング勝負なんだから!」


美鈴の勢いに押され、朱里は渋々うなずいた。

でも、心のどこかで少しだけ希望が灯っていた。

「行動する」──その言葉が、胸の奥で何度も響く。


美鈴は笑って言った。


「まずは、“大嫌い”を封印ね」


「……それ、いちばん難しい」


「難しいけど、やるの。言葉ひとつで人の印象は変わるんだから」


朱里は静かにラテを口に含んだ。

ほんのり甘くて、少しだけ苦い。

まるで今の気持ちみたいだと思った。


「……よし。次会うときは、“大嫌い”の代わりに“ありがとう”を言う」


「それでいい! それが“恋の戦略・第一歩”!」


美鈴が笑顔で親指を立てると、朱里も小さく笑い返した。

こじらせた恋の戦いが、ようやく動き出した気がした。


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