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第55話 すれ違いモールデート

「今日は、わざわざ付き合ってもらってすみません」

そう言いながら朱里は、紙袋を両手に抱えて小さく笑った。


「いや、こっちも久しぶりにゆっくりできてよかったよ」

嵩は柔らかな声で答え、自然と朱里の歩調に合わせて歩いていた。


モールの天井から降り注ぐ光が、二人の影を並べる。

それだけで朱里の胸は、少し高鳴った。


「……でも意外ですね。平田先輩、こういう場所来るタイプじゃないかと」

「たまには来るよ。資格の参考書とかも買えるし」

「また勉強ですか?ほんと、真面目すぎます」


軽口を叩いたあと、朱里はすぐに後悔した。

(しまった、“大嫌い”って言う代わりに茶化すの、ほんと悪い癖……)


嵩は苦笑しながら本屋の方向を指した。

「ちょっと見てっていい?」

「もちろん。私も雑誌でも見ます」


二人は別れて店内を回る。

朱里は雑誌コーナーに立ちながら、

(こうして一緒にいる時間、悪くないな……)

と心の中でつぶやいた。


──だがその時。

ふと視線の先に見慣れた人物が入ってきた。


(……え?)


望月瑠奈。

休日らしく淡いブルーのワンピースに身を包み、

笑顔で手を振りながら、誰かと一緒に入ってくる。


しかも、その隣にいたのは──

朱里の心臓が止まりそうになった。


「……平田先輩?」


思わず声が漏れそうになった。

いや、違う。

嵩は別の棚にいる。

でも、瑠奈と隣の男性はどこか親しげで、

その雰囲気が朱里の胸をざわつかせた。


(なんでこんなときに……)


慌てて視線を逸らした朱里のもとに、

タイミング悪く嵩が戻ってきた。


「欲しかった本、見つかった?」

「え、あ、うん。……ていうか、なに今の偶然」

「偶然?」

「ううん、なんでもない!」


朱里は誤魔化すように笑い、

そのまま足早にレジへ向かった。


──せっかくの休日デートなのに、

心はもう平静じゃいられなかった。


モールの喧騒の中、

朱里の小さな独り言が消えていった。


「……やっぱり“好き”なんて、言えないよ……」


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