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第53話 待ち合わせと、意外な一言

駅前の噴水広場。

 休日の午前ということもあって、人通りは多く、家族連れやカップルが行き交っていた。

 朱里は早めに着いたつもりだったが、すでに平田嵩はベンチに座っていた。


「……早っ」


 思わず口の中でつぶやく。

 彼はいつも通りの落ち着いた雰囲気で、白シャツにジャケットを軽く羽織り、膝の上でスマホをいじっている。

 その姿はどこか大人びていて、朱里の胸の鼓動が早まった。


「おはようございます」

「お、来たね。……あれ、なんかいつもと違う?」


「え、ちょ、な、なにがですか?」

 動揺して声が裏返る。


「いや、髪かな。少し巻いてる?」

「そ、そんなのいつも通りですよ!」


 早口で否定したが、鏡の前で三十分格闘したことを思い出し、顔が熱くなる。

 嵩はそんな朱里の反応を面白そうに見つめ、柔らかく笑った。


「……ふふ、なんかいいね。今日、楽しみにしてた?」


「た、楽しみにしてたとかじゃなくて!」

「“じゃなくて”?」

「気分転換です! ここんとこ忙しかったですし!」


 完全に動揺している朱里を見て、嵩は軽く肩をすくめる。

「はいはい。じゃあ、今日は気分転換のために、俺が付き合うってことで」


 そう言って歩き出した彼の横顔が、いつもより少し優しく見えて、朱里は思わず見惚れてしまう。

 そして自分でも気づかぬうちに、小さくつぶやいていた。


「……ほんと、ずるい」


「ん? 何か言った?」

「な、なんでもないですっ!」


 顔をそむけて歩き出す朱里。その背中を見ながら、嵩は少しだけ笑った。


 ──それは、まだ始まったばかりの“恋の一日”だった。



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