第51話 休日のお誘い
土曜の朝。カーテンの隙間から射し込む光に目を細めながら、朱里はスマホを握りしめていた。
昨日の夜から何度も打っては消してきたメッセージ。頭の中でシミュレーションしても、どうしても「勇気」が足りない。
(だって、休日に誘うなんて……迷惑かな? 勉強の邪魔になるかな?)
それでも美鈴の「仕掛けなきゃ変わらない」という言葉が、背中を押してくる。
画面に映る「平田嵩」の名前を見つめ、朱里は深呼吸をした。
──送信。
指先が、ついに「送信ボタン」を押していた。
文章は短い。
『平田さん、もし日曜空いてたら、ちょっと気分転換に出かけませんか?』
送った瞬間、心臓がばくばくと暴れ出す。
「や、やっちゃったぁ……!」
布団に顔を埋めて足をばたつかせる朱里。恥ずかしさで顔が真っ赤になる。
返信が来るまでの数分が、永遠にも感じられた。
やっとスマホが震え、朱里は勢いよく飛び起きる。
『いいですね。ちょうど息抜きしたかったところです。どこに行きましょうか?』
その言葉に、朱里の胸がふわりと熱くなる。
(……よかった。断られなかった……!)
指が震えながらも、朱里は急いで返事を打った。
『じゃあ、駅前の新しい雑貨屋さんとか、どうですか?』
すぐに「了解です!」と返ってくる。
朱里はベッドにごろんと転がり、枕を抱きしめて小さく叫んだ。
「もー……大嫌いっ!」
それはいつもの口癖。だけど今日は、心の中でしっかり続きがあった。
(……本当は、大好きなのに!)
こうして、朱里にとって初めての「休日デート計画」が始まったのだった。




