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第50話 仕掛ける勇気

美鈴の何気ない一言が、朱里の胸にずしりと響いた。

「ライバル視してるだけじゃ追いつけない」──その言葉は、図星だった。


 確かに、今の自分はただ嵩と瑠奈を見比べて、嫉妬して、勝手に落ち込んでいるだけ。

 そんなことをしている間にも、嵩は未来に向かって歩みを進めている。

 ──そして、隣を歩くのは瑠奈かもしれない。


「……やだ」

 小さく漏れた声に、美鈴が首をかしげる。

「え?」

「やだよ。そんなの、絶対に……!」


 気付けば、朱里は拳を握りしめていた。

 美鈴はにやっと笑い、肩を軽く叩く。

「その調子。その気持ちがあるなら、行動あるのみでしょ。わかりやすく仕掛けるんだよ」

「し、仕掛けるって……どういう意味?」

「簡単に言えば――“朱里の存在を意識させる”ってこと」


 美鈴はいたずらっぽくウィンクした。

「ランチや飲み会はもう誘ったんでしょ? じゃあ今度は休日を狙うの。勉強ばっかの彼を引っ張り出して、気分転換させてあげるの」

「き、気分転換……?」

「そう。勉強漬けの男の人ってね、ふとした瞬間に支えてくれる人のこと、すごく特別に感じちゃうものなんだよ」


 朱里は目を見開いた。

 休日に嵩を誘う──それは彼の努力を邪魔することにも思えて、今まで踏み出せなかった。

 でも、美鈴の言葉に、心の中で何かが弾けた。


(私だって……私だって、支えになりたいんだよ。瑠奈なんかに負けてられない!)


 強い決意が、胸の奥に燃え広がる。

 朱里は深呼吸をして、美鈴をまっすぐ見た。

「……わかった。やってみる」

「その意気だよ。朱里なら絶対うまくいくって」


 美鈴の笑顔に励まされながらも、朱里の頬は真っ赤だった。

 その夜、ベッドに潜り込みながらも、頭の中は「嵩をどう誘うか」でいっぱいになっていた。


 スマホを手に取り、メッセージアプリを開く。

 “平田さん、今度の日曜、ちょっと気分転換に出かけませんか?”

 ……そう打ちかけて、朱里は何度も消しては打ち直した。


 気付けば午前二時。

「もー……大嫌い!」

 枕に顔を埋めて転がる朱里の声は、甘く苦い夜に溶けていった。


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