第43話 空回りアピール大作戦
「いい?朱里。素直になれないなら、せめて“ちょっとしたアピール”くらいはしておきなさい」
美鈴のアドバイスを受けて、朱里は翌日、妙な決意を胸に出社した。
アピールって……どうやるのよ。
お菓子を差し入れるとか?それとも、さりげなく褒めるとか?
頭の中でシミュレーションしているうちに、ちょうどコピー機の前で嵩と鉢合わせした。
「おはようございます、中谷さん」
「お、おはようございます!」
タイミングは今しかない、と朱里は思った。
美鈴の言葉を思い出しながら、深呼吸をして笑顔をつくる。
「えっと……先輩、今日も……」
「今日も?」
「……だ、大嫌いです!」
なぜか口をついて出たのは、いつもの三文字。
言った瞬間、朱里は顔から火が出そうになり、コピー用紙を取り落とした。
嵩は一瞬固まったあと、苦笑しながら紙を拾ってくれる。
「……ありがとう。なんか、慣れてきちゃったな、その言葉」
慣れてきた?
それって……本気で嫌われてるって思ってる証拠じゃないの!?
心臓がバクバクする中、朱里は「違うのに!」と叫びたいのをぐっと飲み込んだ。
アピールどころか、また“逆効果”になってしまった気がして、机に戻る足取りは重い。
「……はぁ。私って、ほんとバカ」
机に座り、ため息をつく朱里の姿を、少し離れた席で瑠奈がじっと見ていた。




