第37話 割り込む声
レストランを出て、朱里と嵩は並んで駅へ向かって歩いていた。
久々に二人きりで過ごしたランチは、朱里の胸に心地よい余韻を残していた。
──こういう時間が、ずっと続けばいいのに。
そう思った瞬間。
「平田先輩!」
明るい声が背後から響いた。振り返ると、そこには望月瑠奈が立っていた。
髪をふわりと揺らし、笑顔で駆け寄ってくる。
「奇遇ですね! 私も近くでランチしてたんです」
瑠奈は自然に嵩の隣へ立ち、まるでそこが自分の定位置かのように距離を詰めた。
朱里の胸に、小さな棘のような痛みが走る。
「へえ、偶然ね」と笑顔を作るが、心はざわめいていた。
「先輩、今度の週末ってお時間ありますか? 実は一緒に行ってほしい展示会があって……」
瑠奈が嬉しそうに話を振る。
嵩は少し驚いた顔をしたが、すぐに穏やかな笑みを浮かべた。
「展示会か。面白そうだな」
その返答に、朱里の指先がわずかに震えた。
──なんで即答するのよ。どうして私の前で。
口から出そうになった「大嫌い!」を、朱里は必死で飲み込む。
代わりに小さな声で「じゃあ、私先に戻るね」と言い残し、二人を置いて歩き出した。
背後から楽しげな瑠奈の声が追いかけてくるたびに、朱里の心は締めつけられていった。
──やっぱり、ライバルだ。
彼女の胸に芽生えた感情は、もう否定できなかった。