第31話 親友の直球
「朱里、あんた最近おかしいよ」
土曜の午後。
カフェの窓際に座った朱里は、親友の田中美鈴にいきなり切り出され、カップを持つ手を止めた。
「……おかしいって、何が?」
「とぼけないの。職場でもすっごくピリピリしてるって噂になってるし、何より……平田先輩のこと、避けてるでしょ」
図星すぎて、心臓が跳ねた。
朱里は視線を泳がせながら、わざと冷めた口調を装う。
「別に避けてないわ。ただ、仕事で忙しいだけ」
「はい、また強がり」
美鈴は呆れ顔でストローをくるくる回した。
「この前の飲み会でもそうだったじゃん。『大嫌い』って連発して、結局、本音を誤魔化してたでしょ?」
「……だって」
言いかけて、朱里は口をつぐんだ。
だって本当は「好き」と言えないから。
胸の奥で燻る想いを、うまく言葉にできないから。
「朱里、聞かせてよ。本当はどうなの?平田先輩のこと、好きなんでしょ?」
美鈴のまっすぐな瞳に射抜かれて、朱里は言葉を失った。
沈黙。
やがて、俯いたまま小さくつぶやく。
「……わからない」
「わからないじゃなくて、怖いんでしょ」
美鈴はズバリと言い放つ。
「素直になって嫌われるのが怖いから、逆に『大嫌い』って言って自分を守ってる。違う?」
胸に突き刺さる指摘に、朱里は返事ができなかった。
代わりにカフェラテの泡をスプーンでつつきながら、苦笑する。
「……美鈴って、本当に性格悪い」
「でしょ?でも、親友だから言えるの」
美鈴はにやりと笑った。
「いい加減、自分に正直になりなよ。じゃないと、平田先輩、ほんとに瑠奈ちゃんに取られちゃうよ?」
その言葉に、朱里の胸がぎゅっと締め付けられた。
「……そんなの、嫌」
初めて漏れた素直な声。
美鈴は満足げに微笑み、カップを掲げる。
「よし、それが聞きたかった。──なら、次は行動あるのみ!」
朱里は小さく頷いたが、心の中ではまだ不安でいっぱいだった。
“素直になること”。
それが自分にとって、一番難しいことだから。




