第27話 ライバルの眼差し
翌朝のオフィス。
朱里はデスクに座りながら、昨日の会議の余韻をまだ引きずっていた。
嵩と背中合わせに戦った感覚。あの一体感は、ただの仕事以上のものだった気がしてならない。
(……でも、浮かれてちゃだめ。私はまた強がって、余計こじらせるに決まってるんだから)
心の中で自分に言い聞かせていると、背後から声がした。
「中谷先輩!」
振り返ると、瑠奈が元気よく立っていた。手には社内報を持っている。
「昨日のプレゼン、すごく良かったって評判ですよ!先輩と平田先輩、ぴったり息が合ってて……」
「そ、そんなこと……」
朱里は慌てて否定するが、瑠奈はにっこり笑ったまま、じっと朱里を見つめてくる。
「でも正直、ちょっとびっくりしました。中谷先輩って、普段は平田先輩に“冷たい”イメージだったから」
「……え?」
思わず固まる朱里。
「だから、昨日の二人は別人みたいに見えて。仲が良さそうで……なんだか、羨ましかったです」
瑠奈の瞳がきらりと光った。
その一瞬、朱里は直感した。──これはただの後輩の憧れじゃない。
(……やっぱり。望月さん、本気で先輩のこと……)
瑠奈は声を少し落として、朱里の耳元に囁いた。
「中谷先輩って、平田先輩のこと……どう思ってるんですか?」
ドキッと胸が跳ねる。返事をするより早く、瑠奈は笑顔に戻って言った。
「まあ、答えは聞かなくてもわかる気がしますけど」
そう言い残して、自分の席へ戻っていった。
朱里はしばらく動けなかった。
ライバル宣言なんて一言もなかったのに、その笑顔の裏に潜む瑠奈の決意が、はっきりと伝わってしまったからだ。
(大嫌いって言ってごまかす余裕も……なくなってきたかも)
胸のざわめきを抱えたまま、朱里は深く息を吐いた。