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第20話 居酒屋初デートの攻防

土曜の夜。

朱里は駅前の居酒屋の前で、落ち着かない足取りを繰り返していた。


(やばい……緊張で吐きそう……!)


美鈴に「絶対スカート!絶対ヒール!」と念押しされ、普段は滅多に着ない淡いピンクのワンピースを着てきた。

通りすがりのサラリーマンに二度見され、余計に落ち着かない。


「中谷さん?」

後ろから声。振り返れば、カジュアルジャケットにジーンズ姿の嵩。

仕事スーツとは違う、ラフな格好に朱里の心臓が一瞬止まる。


「せ、先輩……!」

「待たせちゃいました?」

「い、いえ!今来たとこです!」

(……ああ!つい恋愛ドラマのテンプレ台詞を……!)


二人で入った居酒屋は、落ち着いた照明の個室。

メニューを開いた嵩が言う。

「好きなの頼んでください。……あ、でも中谷さん、お酒強いんですか?」

「そ、そんなに強くないですけど……」

「じゃあ、軽めにしておきますか」


(優しい……。優しいのに、どうして私はいつも“嫌い”なんて言ってたんだろ……)


乾杯。

ビールを一口飲むと、ほんのり頬が熱くなっていく。

そんな朱里を見て、嵩がふっと笑う。


「中谷さん、なんだかいつもより……可愛いですね」


「ぶっ!!!」

思わずビールを吹き出しそうになる朱里。

(……今、今、今、何て!?)


「い、いや、その……!」

取り繕おうとする嵩の横で、朱里は真っ赤になって俯くしかなかった。


(……だめ。嬉しすぎて心臓が死ぬ……!)


そこへタイミング悪く──。


「おーっ!先輩じゃないですか!」


襖が開き、元気いっぱいの声が飛び込んでくる。

望月瑠奈。


「偶然ですね!私も友達と飲みに来てたんです!……って、あれ、中谷先輩も一緒なんですか?」


にっこりと笑う瑠奈。

しかしその瞳は、朱里には明らかに「勝負開始」のサインに見えた。


朱里の心は一瞬で冷や汗まみれになる。


(な、なんで……このタイミングで……!?)


──居酒屋初デートは、思わぬ乱入で波乱の幕開けとなった。


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