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第18話 誘えない女

月曜日の朝。

朱里はデスクに座りながら、ひそかに拳を握っていた。


(よし……今日は絶対、平田先輩を誘う。居酒屋でもカフェでも、何でもいい……!)


そう意気込んだはずなのに。

昼休みになっても、午後になっても、言葉が喉につかえて出てこない。


「……中谷さん、この資料、確認してもらえますか?」

「は、はい!」

いつも通りの仕事モード。嵩の自然な笑顔に、朱里の心臓はどくどく暴れ出す。

(今だ!言うの!「今日飲みに行きませんか?」って!)


口を開きかけた瞬間──。


「中谷先輩〜、これコピー機詰まっちゃって……」

瑠奈がタイミングよく割り込んできた。

朱里は慌てて口を閉じる。


(……何このライバル、空気読み能力高すぎでしょ!?)


結局その日も何も言えずに帰宅。

ベッドに倒れ込むと、スマホがまた震えた。

送り主はもちろん、美鈴だ。


『で?誘えた?』

「……無理だった」とだけ返す。

即、既読。すぐに電話がかかってきた。


「ちょっと朱里!アンタ何やってんのよ!」

「だって、タイミングが……」

「言い訳禁止!ほら、“練習”しなさい!今すぐ!」

「練習って……え?電話で?」

「そう!私が平田先輩役やるから。はい、どうぞ!」


朱里は渋々スマホを持ち直し、深呼吸。

「……あ、あの、平田先輩。こ、今度……い、一緒に……の、飲みに……」

「却下!棒読み!」

「ひぃ!?」


「もっと自然に!『お疲れさまです、先輩。今週どっかで飲みに行きません?』──ほら、リズムはこう!」

「そ、そんな軽快に言えないよ!」

「言える!じゃなきゃライバルに持ってかれるだけよ!」


美鈴のスパルタ指導は30分以上続いた。

最後には朱里も息切れしながら、ようやくそれらしい台詞を口にできるようになる。


「……お疲れさまです、先輩。今週どっかで飲みに行きません?」

「おぉ〜!やればできるじゃん!」

「はぁ……もう無理……」


スマホを切ったあと、朱里は天井を見上げて呟いた。

「……明日こそ、言う」


けれど、その決意が実現するかどうかは──まだ誰にもわからなかった。



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