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大嫌い!って100回言ったら、死ぬほど好きに変わりそうな気持ちに気付いてよ…。  作者: 菊池まりな


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第170話 何も決めないと決めた夜

玄関の鍵を閉めた瞬間、力が抜けた。


「……つかれた」


声に出したら、やっと現実に戻ってきた気がした。


靴を脱ぎ、鞄を床に置いて、そのままソファに


座り込む。


部屋は静かだった。


テレビもつけず、スマホも触らず、ただ天井を見上げる。


(今日、何かを決めなきゃいけなかったんだっけ)


そんな問いが浮かんで、すぐに打ち消す。


──違う。


今日は、決めないって決めた日だ。


転勤の話。


嵩の気持ち。


自分の覚悟。


全部が現実味を帯びてきて、


気づいたら「答え」を求められる位置に立っていた。


でも。


(今、無理に決めた答えは)

(きっと、私を守らない)


立ち上がって、キッチンで水を飲む。


コップの中の水が揺れて、少しだけ(こぼ)れた。


拭きながら、ふと思う。


──もし今、「一緒に行く」と言ったら。

──もし今、「待てない」と言ったら。


どちらも、後悔しそうだった。


「……ずるいよね」


誰に言うでもなく、呟く。


嵩は、きっと決断を迫られている。


それなのに、自分だけ立ち止まって。


でも。


(嵩は、“急がせない”って言ってくれた)

(だったら、甘えていい)


スマホが、テーブルの上で静かに光る。


通知はない。


それが、なぜか救いだった。


今日は、連絡を取らない。


取らなくていい。


「今日は……考えない」


そう決めて、部屋着に着替える。


鏡の前で、ふと自分の顔を見る。


疲れている。


でも、逃げた顔じゃない。


「……大丈夫」


小さく言ってみる。


布団に入って、目を閉じる。


嵩の横顔が浮かぶ。


駅前での声。


“別れ道にしたくない”という言葉。


胸が、じんわりと痛む。


(答えは、まだ出さない)

(でも、気持ちは嘘じゃない)


決めないことは、放棄じゃない。


今は、守るための選択。


眠りに落ちる直前、ひとつだけ思った。


──もし、決める日が来たら。 ──その時は、逃げない。


それだけで、今日は十分だった。


静かな夜が、朱里を包み込む。


何も決めないと決めた夜は、


不思議と、少しだけ優しかった。


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