第17話 居酒屋の夜
週末の夜、朱里は落ち着かなかった。
ベッドに寝転んでも、スマホをいじっても、頭の中に浮かぶのはひとつだけ。
(今ごろ……二人で、居酒屋……)
頭の中に勝手に浮かぶ映像は最悪だ。
掘りごたつの座敷で、向かい合って笑い合う嵩と瑠奈。
「先輩、からあげどうぞ」なんて、箸で差し出す瑠奈。
それをまんざらでもなさそうに受ける嵩──。
「いやぁぁぁぁ!何それ!やめて!」
思わず布団の中で叫んでしまった。
そんな朱里の横でスマホが震える。メッセージの送り主は田中美鈴だった。
『で、まだ居酒屋のこと考えてるでしょ?』
「……エスパー?」
と朱里が返信すると、即既読がつく。
『バレバレ。嫉妬で枕殴ってそう』
「殴ってない!」
と返しつつ、心の中では図星を突かれた気分だった。
美鈴から続けざまにメッセージが飛んでくる。
『いい?あんたがグズグズしてる間に、後輩ちゃんは距離を縮める。居酒屋だって、恋愛的には立派なステージなのよ』
『今こそ“対抗作戦”を練るべき』
「対抗作戦……?」
朱里は思わず声に出した。
『そう!このまま黙って嫉妬してても何も変わらないでしょ。だから次は──あんたが平田先輩を誘うの』
「私が!?絶対無理!」
『無理じゃない!あんたの“好き”は重症なんだから、少しは薬飲ませなさい』
朱里はスマホを握りしめて唇を噛んだ。
頭の中で、楽しそうに笑う瑠奈と嵩の姿がちらつく。
(このままじゃ……ほんとに取られちゃう……)
そのとき、胸の奥にふつふつと湧き上がる感情があった。
嫉妬と悔しさと、そして──どうしようもない恋心。
「……わかった。やってみる」
声に出してみると、不思議と胸が少し軽くなった。
次は自分が動く番。
そう思いながら朱里は布団の中で拳を握りしめた。