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大嫌い!って100回言ったら、死ぬほど好きに変わりそうな気持ちに気付いてよ…。  作者: 菊池まりな


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第163話 瑠奈は、空気を読まない

その日、部署の空気はどこか張りつめていた。




嵩の転勤が“ほぼ確定”ではなく、“事実として共有されたあと”の、独特の静けさ。誰もが知っているのに、誰も正面から触れない──そんな薄い膜が、フロア全体を覆っていた。




その膜を、ためらいなく破ったのが瑠奈だった。




「嵩さんって、向こう行く気なんですよね?」




昼休み前、給湯室から戻った直後。




あまりに唐突で、あまりに率直な一言に、周囲の手が一斉に止まった。




「……瑠奈」




美鈴が低く名前を呼ぶ。制止のつもりだったのだろう。




けれど瑠奈は、悪びれもしなかった。




「だって、みんな気にしてるじゃないですか。行くのか、残るのか。本人だけが黙ってるの、変じゃないですか?」




視線が、嵩に集まる。




同情でも好奇心でもない。ただ、“答え”を待つ目。




嵩は一瞬、言葉を探した。




ここではまだ言えない。朱里にも、まだ──。




「……正式な話は、これからだ」




それだけ告げると、瑠奈は小さく首を傾げた。




「じゃあ、朱里さんには?」




空気が、音を立てて沈んだ。




美鈴が一歩前に出る。


「それは──」




「まだだ」




嵩が、静かに遮った。




瑠奈は数秒、嵩を見つめてから、ふっと息を吐いた。




「そっか。じゃあ聞かないです。でも──」




彼女は少しだけ、声を落とした。




「決めるの、嵩さん一人じゃないと思います」




それだけ言うと、何事もなかったように席に戻っていった。




残された空気は、さっきまでとは明らかに違っていた。




沈黙の質が変わった。




“避ける沈黙”から、“向き合う前の沈黙”へ。




嵩はデスクに戻りながら、朱里の背中を見た。




彼女はまだ何も知らない。




けれど、きっともう──何かを感じ取っている。




今日か、明日か。




このままでは、いられない。




嵩は、決意を胸の奥で確かめるように、そっと息を吸った。



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