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大嫌い!って100回言ったら、死ぬほど好きに変わりそうな気持ちに気付いてよ…。  作者: 菊池まりな


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第160話 聞くと決めた夜、逃げ道を閉じる

部屋の電気をつけたまま、朱里はソファに座り込んだ。




上着も脱がず、バッグだけ床に置く。


(……聞くって、言っちゃった)




自分で言った言葉なのに、胸がざわつく。


スマホの画面には、嵩からの最後のメッセージ。




《明日、全部話します。逃げないで、聞いてください》




逃げない。




簡単に言ったけれど、


実際は“逃げ道が見えてしまう”夜が一番怖い。




転勤。




はっきり言われたわけじゃない。




でも、分からないほど鈍くはない。




(場所が変わる)


(時間が変わる)


(距離が変わる)




そしてきっと──関係も。




立ち上がって、キッチンで水を一杯飲む。




喉を通る感覚だけが、現実に引き戻してくれる。




(もし、行くって言われたら)


(私は、どうするんだろう)




“ついて行く”なんて、簡単に言えない。




仕事も、生活も、積み上げてきたものがある。




でも。




“行かないで”も、言えない気がした。




(……好きだから)




その事実だけが、逃げ場を塞ぐ。




スマホが震える。


瑠奈でも嵩でもない。




田中美鈴だった。


《起きてる?》




短い文なのに、すべて見抜かれている気がする。




《起きてる》


《眠れない》




既読がつくまで、数秒。




すぐに返事が来た。




《明日だね》


《話、聞く日》




朱里は息を止めた。




《……うん》




少し間があって、次のメッセージ。




《怖い?》




正確すぎて、笑いそうになる。


《怖い》


《すごく》






しばらく返信がない。




その沈黙が、美鈴らしかった。




《逃げたい?》




朱里は、少し考えてから打った。




《逃げたい》


《でも、逃げたら》


《たぶん、一生後悔する》




送信。




また、間が空く。


《じゃあ》


《もう答え出てるね》






シンプルで、冷静で、容赦がない。




でも──救われる。




《聞くって決めたなら》


《途中で優しくしなくていい》


《自分の気持ち、ちゃんと守りな》




画面を見つめて、朱里は小さく頷いた。




(守る、か)




好きだからって、


全部受け入れる必要はない。




怖いなら、怖いって言っていい。




「……うん」




声に出す。




誰もいない部屋で、


自分に言い聞かせるように。




ベッドに横になり、天井を見る。




(明日)


(聞く)




それだけで、胸がいっぱいになる。




でも、不思議と後悔はなかった。




逃げ道を閉じた夜は、




少しだけ、覚悟の形をしていた。




目を閉じる直前、スマホが震える。




嵩からだった。




《今日は、ありがとう》


《ちゃんと聞こうとしてくれて》




朱里は、少し迷ってから返す。




《こちらこそ》


《明日、ちゃんと聞きます》




送信。




そのあと、付け加える。




《怖いけど》


《逃げません》




画面を伏せて、目を閉じる。




明日が来る。




怖くて、避けられなくて、


でも──ちゃんと向き合う日が。



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