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大嫌い!って100回言ったら、死ぬほど好きに変わりそうな気持ちに気付いてよ…。  作者: 菊池まりな


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第158話 それ、もう一人で背負う話じゃないよ

水曜日の昼。


社内はいつも通りのはずなのに、


朱里は、嵩の背中がやけに遠く感じていた。


(……何か、あった)


理由は分からない。


でも、昨日までの“静かな安心”が、薄く剥がれ落ちた感覚。


嵩はいつも通り仕事をしている。


表情も、声も、態度も。


だからこそ──違和感だけが、残る。


「朱里」


昼休み、背後から声をかけられた。


振り向くと、美鈴が立っていた。


トレーにコーヒーだけを乗せた、いつもの無表情。


「……美鈴、どうしたの?」


「席、空いてる?」


朱里は頷き、二人で窓際の席に座る。


しばらく、何も言わない。


それが美鈴の“前置き”だと、朱里は知っている。


「ね」


「うん?」


「平田くん、昨日から少しおかしい」


朱里の指が、紙コップを握る。


「……やっぱり、そう見える?」


「見える。かなり」


断定。


迷いのない声。


「理由は?」


「分からない。でも……」  


美鈴は一拍置いて、続けた。


「“決断を一人で抱えてる顔”してる」


朱里は、息を詰めた。


(……転勤)


頭に浮かんだ言葉を、口に出せない。


美鈴は、朱里の沈黙を否定しなかった。


「朱里」


「……なに」


「聞くけど。

 あなた、知ってるの?」


朱里は、正直に首を振った。


「まだ、ちゃんとは……」


「そう」


美鈴はコーヒーを一口飲み、静かに言った。


「なら、これ以上一人で抱えさせるのは違う」


その言葉に、朱里は顔を上げる。


「え……?」


「仕事の話でも、将来の話でも」


「“恋人未満”とか、そういう立場は関係ない」


美鈴は、まっすぐ朱里を見る。


「あなたは、もう当事者」


胸に、ずしりと落ちた。


「でも……私が踏み込んでいいのか分からなくて」


「分からないまま、黙るのが一番残酷」


即答だった。


「聞く勇気も、待つ覚悟も、どっちも“踏み込む”ってことだよ」


「何もしないのは、優しさじゃない」


朱里は、唇を噛む。


「……美鈴」


「なに?」


「私、怖いの」


声が震えた。


「もし、転勤って言われて」


「それでも好きだって言われたら」


「……どうすればいいか分からない」


美鈴は、少しだけ表情を緩めた。


「それ、正しい反応」

「怖くない方が変」


そして、はっきりと言った。


「だから──一人で抱えさせない」


朱里だけじゃない。


嵩にも、だ。


「私が動く」


「え?」


「仕事の話として、状況を整理する」


「平田くんにも、朱里にも、ちゃんと“選択肢”が見える形にする」


朱里は驚いた。


「それって……」


「職場の人間として、親友として、両方の立場で」


美鈴は立ち上がり、トレーを持つ。


「朱里」


「……うん」


「逃げないって決めたなら、支えられることは受け取りな」


その背中は、迷いがなかった。


朱里は、胸に手を当てる。


(……一人じゃない)


そう思えた瞬間、

ほんの少しだけ、怖さが軽くなった。


そして同時に──

嵩に、ちゃんと向き合う覚悟が、静かに芽生え始めていた。


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