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大嫌い!って100回言ったら、死ぬほど好きに変わりそうな気持ちに気付いてよ…。  作者: 菊池まりな


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151/175

第151話 親友は、慰めない

水曜日の夜。

朱里の部屋。

コンビニ袋をテーブルに置いたまま、二人は床に座っていた。

缶コーヒーが一本、開けられないまま転がっている。


「……で?」

美鈴が先に口を開いた。

声はいつも通り、淡々としている。

「平田嵩。

今、どういう立ち位置?」

いきなり核心。


朱里は一瞬、言葉に詰まった。

「……どういう、って」

「“好きです”って言い合った。

でも付き合ってない。

職場では距離を取る。

帰り道は一緒に歩く。

──合ってる?」

全部、当てられている。


「……盗聴されてた?」

「違う。顔に全部書いてある」

朱里は小さく息を吐いた。

「……怖いんだと思う」

「何が?」

「変わること。

今のまま壊れない距離が、なくなるのが」

美鈴は朱里を見たまま、視線を逸らさない。

「それ、逃げてる?」

「……逃げてない、つもり」

「“つもり”は逃げの親戚」

ぐさっと来る。

「美鈴ってさ……もうちょっと優しくできないの?」

「できるよ。

でも、今日はしない」

朱里は苦笑した。

「……だよね」

「朱里。

あんたね、“好き”って言われると、急に自分を後回しにする癖ある」

胸の奥を、正確に撃ち抜かれる。

「相手が大事だから、我慢する。

壊したくないから、言わない。

そのくせ、限界きたら一人で抱えて黙る」

「……」

「それ、優しさじゃない。

自己犠牲中毒」

きっぱり。

朱里は膝を抱えた。

「……じゃあ、どうすればいいの」

「簡単」

「嘘」

「嘘じゃない」

美鈴は缶コーヒーを手に取り、ようやく開けた。

「“怖い”って言いなさい」

「……言ってる」

「足りない」

一口飲んで、続ける。

「“好きだけど怖い”

“進みたいけど不安”

“でも逃げたくない”

それを全部、相手に渡す」

朱里は目を伏せた。

「……重くならない?」

「なる」

「じゃあ──」

「それを“重い”って受け取る男なら、最初からやめときなさい」

一瞬の沈黙。

朱里は、はっとして顔を上げた。

「……美鈴」

「私は親友だから言うけどね」

声は冷静。でも、柔らかい。


「平田嵩は、

“朱里が我慢して平気な顔する未来”より、

“朱里が不安でもちゃんと話す未来”を選ぶタイプ」

どうして、そんなことが分かるのか。

「……なんで、分かるの」

「見てるから」

「仕事として?」

「親友として」

朱里の胸が、きゅっと縮む。


「職場では言わない。

でも今は言う」

美鈴は少しだけ声を落とした。

「朱里。

あんたは、選ばれる側じゃない。

選ぶ側に立っていい」


その一言で、何かがほどけた。

朱里は目を潤ませながら笑った。


「……美鈴ってさ」

「なに」

「慰めないよね」

「慰めると、あんた逃げるでしょ」

図星。


「……親友でよかった」

「知ってる」

あっさり言われて、朱里は吹き出した。


「じゃあさ」

「うん」

「明日、ちゃんと言う」

「何を?」

「怖いって。

でも好きって。

逃げないって」


美鈴は立ち上がり、朱里の頭を軽く叩いた。

「それでいい」

「……それだけ?」

「それ以上は、本人にやらせなさい」


部屋に静けさが戻る。


でも、朱里の胸の中は──

不思議なくらい、まっすぐだった。


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