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大嫌い!って100回言ったら、死ぬほど好きに変わりそうな気持ちに気付いてよ…。  作者: 菊池まりな


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150/172

第150話 それでも、踏み込むなら

夕方、社内が少し落ち着いた時間帯。


嵩はコピー機の前で資料をまとめていた。


背後から、落ち着いた声がかかる。


「平田さん」


振り返ると、美鈴が立っていた。


「少し、時間いい?」


「はい」


短い返事。


理由を聞かなくても、何となく察しはつく。


◆応接室


ドアが閉まる音が、静かに響いた。


「噂の件は、もう処理した」


「ありがとうございます」


「感謝されるようなことじゃない」


美鈴はテーブルの向かいに座らず、窓際に立ったまま言う。


「中谷は、仕事に真面目で、責任感が強い」


「……知ってます」


「だから、壊れやすい」


その一言が、空気を変えた。


嵩は、言葉を選ぶ。


「……俺は、壊すつもりはありません」


「分かってる」


即答だった。


「あなたが軽い人なら、最初から止めてる」

沈黙。


「でもね」


美鈴は、初めて嵩を見る。


「“優しい人”ほど、

 無自覚に人を追い詰める」


嵩の喉が、わずかに鳴った。


「守ってるつもりで、

 選択肢を奪うこともある」


「……」


「待つ、配慮する、踏み込まない。

 それ全部、正しい」


美鈴は一歩、近づいた。


「でも」


低く、静かな声。


「中谷は、“待たれすぎる”と、

 自分から諦めるタイプ」


嵩は、はっとする。


「彼女は“逃げない”って言ってるでしょう?」


「……はい」


「それは、

 あなたに委ねてるって意味でもある」


嵩は、拳をぎゅっと握った。


「だから」


美鈴は、最後にこう言った。


「踏み込むなら、

 中途半端は一番残酷」


一拍。


「守る覚悟がないなら、

 最初から距離を保ちなさい」


応接室の空気が、張り詰める。


嵩は、深く頭を下げた。


「……ありがとうございます」


「礼はいらない」


ドアに手をかけながら、美鈴は振り返らずに言う。


「彼女は強い。

 でも、独りで立たせるには、少し優しすぎる」


ドアが閉まる。


嵩は、しばらく動けなかった。


◆その夜


会社を出る前、朱里が待っていた。


「……遅かったですね」


「うん。ちょっと話してた」


「誰と?」


「美鈴さん」


朱里は目を瞬かせる。


「何か……言われました?」


嵩は、少しだけ迷ってから答えた。


「……ちゃんと、覚悟しろって」


朱里は、ふっと息を吐いた。


「それ、あの人らしいですね」


二人で並んで歩き出す。


嵩は、歩幅を合わせる。


今度は、迷わず。


触れない距離のまま。


でも、離れない。


美鈴の言葉が、胸の奥で静かに残っていた。

──中途半端は、一番残酷。


嵩は、そっと決めていた。


次は、

逃げない。


守るだけで、終わらせない。


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