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第15話 誤解の深まり

週の半ば。

朱里は、仕事の打ち合わせのたびに自分の失態を思い出していた。


(あの時、“大嫌い”なんて言わなければよかった……!)


会議室で突発的に口にしてしまった一言。

嵩が一瞬だけ見せた、困惑したような表情が頭から離れない。





昼休み。

オフィスの一角で、嵩と瑠奈が並んでランチをしているのが見えた。


「平田先輩、これ、母から送ってきたんです。よかったらどうぞ」

「え、いいんですか? ありがとうございます」


和やかな笑顔のやりとり。

その光景を遠くから見てしまった朱里は、心臓をぎゅっと掴まれた気がした。


(やっぱり……私なんて、必要ないのかもしれない)


無意識に拳を握りしめる。





その日の夕方。

資料の最終チェックを終えた朱里は、思い切って声をかけた。


「あの、平田先輩。……さっきは、ごめんなさい」

「え?」

「会議室で、“大嫌い”って言ったことです。別にそんな意味じゃなくて……」


朱里の声は小さく震えていた。

だが嵩は少しの沈黙のあと、穏やかに笑った。


「……気にしてませんよ」


その笑顔は優しいのに、どこかよそよそしい。

朱里の胸にチクリと刺さる。


「僕、嫌われるようなこと、してしまったのかなって思ったんですけど」

「そ、そんなこと──!」

「でも、中谷さんがそう言うなら……仕方ないですよね」


静かに言う嵩の声に、朱里は息を呑んだ。

必死に否定したいのに、うまく言葉が出てこない。


(違う、違うのに……! 本当は“大好き”なのに……!)


けれど、喉の奥に言葉が詰まり、ただ唇を噛みしめるしかなかった。


「……今日はもう帰りましょう。お疲れさまです」


軽く会釈して先に部屋を出ていく嵩の背中。

その距離が、これまでになく遠く感じられた。


残された朱里は、机の上で拳を握り締めた。


(どうして……どうして私は、いつも肝心な時に“嫌い”しか言えないの……?)


オフィスの窓から見える夜景が滲んで見えた。

朱里の心の中に、深い後悔と不安の影が広がっていく。



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