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大嫌い!って100回言ったら、死ぬほど好きに変わりそうな気持ちに気付いてよ…。  作者: 菊池まりな


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第148話 瑠奈は、聞いてはいけないことを聞く

その日は、何でもない金曜日だった。


午後の会議が早めに終わり、

部署全体が少しだけ気の緩んだ空気に包まれていた。


「今日、飲み行く人ー?」


誰かの声に、数人が反応する。


朱里は資料を片付けながら、静かに帰る準備をしていた。


「中谷さん」


唐突に呼ばれて、顔を上げる。


そこにいたのは、瑠奈だった。


椅子をくるっと回し、肘をついてこちらを見ている。

「はい?」


「昨日、誰と帰ったんですか?」


一瞬で、空気が止まった。


「……え?」


「だって、いつもより靴きれいだし。

 あと、今日はネイルも直してる」


根拠が、どうでもいいのに鋭い。


「たまたま、です」


「ふーん」


納得していない声。


瑠奈は、ちらりと朱里の背後を見る。


「平田さん?」


名前を呼ばれ、嵩が振り返る。


「昨日、中谷さんと一緒でしたよね?」

──完全にアウト。


「……瑠奈」

美鈴が、低く制止する。

でも、瑠奈は止まらない。


「だって気になってたんですもん。

 最近、二人とも“話しかけてほしくない顔”してるし」


朱里の背筋が凍る。


嵩は一瞬だけ考えるように視線を落とし、


そして、はっきり言った。


「一緒に帰りました」


ざわ、と小さく空気が揺れた。


「やっぱり!」


瑠奈は、嬉しそうですらある。


「じゃあ、付き合ってるんですか?」


その言葉は、刃物みたいに真っ直ぐだった。


朱里は息を吸うことも忘れた。


嵩が答える前に、瑠奈が続ける。


「中谷さん、

 平田さんのこと、めちゃくちゃ好きですよね?」


世界が、完全に止まる。


「……え?」

「だって、平田さんがいないとき、

 “嫌い”って言い方、全然違いますもん」


美鈴が、ゆっくりと立ち上がる。

「瑠奈、そこまで」

「え、ダメでした?」


本気で分かっていない顔。


瑠奈は朱里を見る。


「中谷さん、違うなら違うって言ってください」


逃げ場が、消えた。


朱里は、指先が震えるのを感じながら、口を開く。


「……好き、です」


声は小さいけれど、はっきりしていた。


「平田さんのこと、好きです」


一拍。


二拍。


誰も、何も言えない。


嵩は、ゆっくりと息を吐いてから言った。


「俺もです」


短く、迷いのない声。


「中谷さんが好きです」


瑠奈は、目を丸くしてから──

「え、じゃあ事件じゃないじゃないですか」

と、首を傾げた。


「両想いなのに、

 なんでそんなに距離あるんです?」


その一言で、場の緊張が逆方向に崩れた。


「瑠奈!!」

「今度こそアウトです」

美鈴と先輩の声が重なる。


朱里は、思わず笑ってしまった。


怖かった。


恥ずかしかった。


でも──

誰かに言われなければ、

自分でも言えなかった言葉だった。


嵩が、少し困ったように笑う。


「……事件は、俺たちですね」

「ですね!」

瑠奈は満足そうに頷いた。


「でも良かったです。

 ずっと見てて、

 もどかしかったので」


それだけ言って、何事もなかったように席に戻る。


嵐は、去った。


朱里は、まだ少し熱の残る頬を押さえながら、思う。


(……もう、戻れない)


でも。


嵩が隣で、何も言わずに立っている。


その距離は、もう──怖いだけの距離じゃなかった。


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