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大嫌い!って100回言ったら、死ぬほど好きに変わりそうな気持ちに気付いてよ…。  作者: 菊池まりな


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第146話 触れた瞬間、世界が少しだけ静かになる

信号が青に変わった。


人の流れに押されるように、一歩踏み出す。


その拍子に、朱里の指先が嵩の指に──また、かすった。


昨日より、はっきり。


一瞬じゃなく、確かに“触れた”感触。


(……今の、気のせいじゃない)


朱里が反射的に手を引こうとすると、嵩が小さく声を出した。


「待って」


足は止めず、声だけが落ちる。


強くもなく、命令でもない。


ただ、引き止めるための一言。


朱里の手は、宙で止まった。


「……触れてもいい?」


「……はい」


答えは、考えるより先に出ていた。


嵩の手が、ゆっくり近づく。


指先が触れ、手の甲が重なり──

そして、迷うように、でも確かに指が絡んだ。


握られた。


ぎゅっとじゃない。


逃げ道を残した、優しい力。


胸の奥が、きゅっと音を立てた気がした。


「……あ」


「……嫌じゃない?」


「……嫌だったら、もう歩けてないです」


朱里の声は、自分でも驚くほど震えていた。

でも、手は離さなかった。


嵩は、ほっと息を吐く。


「よかった。

 ……ずっと、こうしたかった」


その言葉が、夜に溶ける。


手を繋いだまま、二人は歩く。


たったそれだけなのに、世界の音が少し遠のいた。


車の音も、人の声も、街のざわめきも。


全部、背景に下がっていく。


(……手、あったかい)


それだけのことが、今は大事件だ。


朱里は、思わず口をついた。


「……私、今、たぶん……」


「うん?」


「“大嫌い”って言えないです」


嵩が小さく笑った。


「それは、進歩?」


「……進歩です。たぶん、かなり」


少し照れた沈黙。


でも、気まずくはなかった。


駅が近づく。


別れの場所が、見えてくる。


(このまま、離すの……?)


そう思った瞬間、嵩が足を止めた。


「ここで……」


「……はい」


名残惜しくて、どちらも手を離さない。


嵩が、ほんの少しだけ力を込めた。


「今日は、ありがとう。

 勇気、出してくれて」


朱里は首を振る。


「……私も、嬉しかったです。

 怖かったけど……ちゃんと、嬉しかった」


その言葉に、嵩の目が柔らかくなる。


「じゃあ、また明日」


「……はい。また明日」


名残を引きちぎるように、そっと手が離れた。


一歩離れた瞬間、夜の空気が戻ってくる。


背を向けて歩き出してから、朱里は気づいた。


──手の温度が、まだ残っている。


それだけで、明日も頑張れる気がした。


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