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大嫌い!って100回言ったら、死ぬほど好きに変わりそうな気持ちに気付いてよ…。  作者: 菊池まりな


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132/172

第132話 縮まったのは距離?それとも覚悟?

 夜風が、少しだけ冷たい。

 並んで歩く帰り道は、いつもより長く感じるはずなのに、気づけば半分ほど過ぎていた。

(“ゆっくり行こう”なんて言われたのに)

 嵩は、朱里の歩幅に自然に合わせてくれている。意識しているのか、無意識なのか──それがわからないのが、また厄介だった。

「……」

 沈黙が続く。

 でも、不思議と居心地は悪くない。

 ただ、静かすぎて、自分の心音ばかりがうるさい。

「中谷さん」

 不意に呼ばれて、肩が跳ねる。

「はい?」

「さっきの話なんですけど」

 さっき──「大嫌い」の話。

(まだ続くの……?)

「最近、言わなくなった理由、聞いてもいいですか」

 嵩の声は穏やかだった。詰めるようでも、探るようでもない。

 ただ、知りたい、という響き。

(ここで誤魔化すのは、ずるい気がする)

 朱里は一度、唇を噛んでから答えた。

「……言うと、面倒くさい人だって思われそうなので」

「思いませんよ」

 即答だった。

 それがまた、胸に刺さる。

「“大嫌い”って言うときって」

 朱里は視線を落としたまま、続ける。

「本当は、嫌いじゃないとき、だったので」

 空気が、ほんの少し張り詰める。

 嵩は足を止めた。

「それって……」

「深い意味はないです!」

 慌てて言葉を被せる。

「ただの、口癖というか、自己防衛というか……」

(何言ってるんだろ、私)

 でも、嵩は否定しなかった。

「自己防衛、ですか」

「……はい」

「近づきすぎると、怖くなるタイプ?」

 図星すぎて、言葉を失う。

「……っ」

「ごめんなさい、変なこと聞きました」

 嵩はすぐに一歩引いた。

 その距離の取り方が、優しすぎて、胸が苦しくなる。

「でも」

 嵩は、少しだけ照れたように笑った。

「そういうの、嫌いじゃないです」

 今度は、朱里が立ち止まる番だった。

「……今、なんて」

「強がりなところ」

 嵩は、まっすぐ朱里を見た。

「中谷さんの、そういうところ」

 頭が、真っ白になる。

(ちょっと待って。これ、どういう意味?)

「……平田さん」

「はい」

「それ、勘違いさせる言い方です」

「勘違い、してほしい場合は?」

 冗談めかした口調なのに、視線は真剣だった。

 朱里は、何も言えなくなる。

(ずるい。ほんとに)

 そのとき。

「──あれ?」

 聞き覚えのある声が、背後からした。

 二人同時に振り向く。

 街灯の下、コンビニの袋を提げた望月瑠奈が、少し驚いた顔で立っていた。

「あ、やっぱり。平田さんと……朱里先輩」

 タイミングが、悪すぎる。

(また……このパターン)

「こんばんは」

 嵩が先に挨拶する。

「こんばんは!」

 瑠奈は明るく返してから、二人の距離をちらりと見た。

「一緒に帰ってたんですね」

「……少しだけ」

 朱里が答えると、瑠奈は意味ありげに笑った。

「へえ。仲いいんですね」

(違う。けど、否定もできない)

「じゃあ、私はこっちなので!」

 瑠奈は軽く手を振り、去っていった。

 残された二人の間に、また沈黙が落ちる。

「……気まずいですね」

 朱里が言うと、嵩は苦笑した。

「ですね。でも」

「?」

「見られて、嫌でした?」

 その質問に、朱里は一瞬迷ってから、正直に答えた。

「……嫌、じゃないです」

 嵩の目が、少しだけ見開かれる。

 でも、すぐに柔らかく細められた。

「それなら、よかった」

(……本当に、心臓に悪い)

 家の前に着く。

「今日は、ここまでですね」

「はい……」

 名残惜しさが、声に滲む。

「中谷さん」

「はい」

「また、ちょっとだけでいいので」

 嵩は、少し照れたように言った。

「一緒に帰りませんか」

 朱里は、小さく息を吸ってから答えた。

「……考えておきます」

 それでも、口元は隠せなかった。

 嵩は、それを見逃さなかった。


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