表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大嫌い!って100回言ったら、死ぬほど好きに変わりそうな気持ちに気付いてよ…。  作者: 菊池まりな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

129/172

第129話 “なんでもない”が、増えていく

 その日の午後は、やけに長く感じた。


 数字の並んだ資料を眺めながら、私は何度も同じ行を目で追っていることに気づく。


(……集中しなきゃ)


 なのに、頭の片隅から離れないのは、瑠奈の言葉だった。


──昨日より、顔色いいです。


 自覚はなかった。

 でも、否定できなかった。


「中谷さん」


 会議室で、平田さんが私の名前を呼ぶ。


「ここ、どう思います?」


「……あ、はい」


 慌てて資料に視線を戻す。


 距離は、ちゃんとある。

 仕事の話だけ。

 余計な言葉も、視線もない。


(……なのに)


 胸の奥が、少しだけ落ち着かない。


 会議が終わり、解散の空気になったとき。


「中谷さん」


 また、平田さんの声。


 今度は、ほんの少しだけトーンが低い。


「さっきの提案、助かりました」


「いえ……こちらこそ」


 それだけの会話なのに、心拍数が上がる。


(“なんでもない”はずなのに)


 デスクに戻る途中、スマホが震えた。


 田中美鈴からだ。


『今日、夜空いてる?』


 私は、画面を見つめたまま立ち止まる。


(……美鈴に、話したい)


 でも同時に、言葉にした瞬間、何かが変わってしまいそうで怖い。


『ちょっとだけなら』


 送信して、胸をなで下ろす。


「朱里?」


 背後から名前を呼ばれて、肩が跳ねた。


「はいっ」


 振り返ると、平田さん。


「大丈夫ですか?顔、固まってましたけど」


「だ、大丈夫です」


 反射的に言い切る。


 平田さんは少しだけ眉を下げて笑った。


「無理してませんか」


 その言葉に、心が揺れる。


(……優しくしないで)


 私は、思わず口にしてしまった。


「平田さんって、そういうところ……」


 言いかけて、止まる。


「……?」


 続きを待つ視線。


「……いえ、なんでもないです」


 逃げるように視線を逸らす。


 平田さんは、少し困ったように笑った。


「最近、その“なんでもない”多いですね」


「……気のせいです」


 即答すると、ますます怪しい。


 平田さんは何も言わなかった。

 けれど、その沈黙が、やけに重い。


 仕事が終わり、帰り支度をしながら、私は思う。


(“なんでもない”が増えるたびに)


(本当は、隠してる気持ちが増えてる)


 美鈴に、どこまで話そう。

 瑠奈のこと。

 平田さんのこと。


 そして、あの帰り道の続きを。


 私はバッグを肩にかけ、深く息を吸った。


 今日こそは。


(少しだけ、本音を出そう)




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ