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大嫌い!って100回言ったら、死ぬほど好きに変わりそうな気持ちに気付いてよ…。  作者: 菊池まりな


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第126話 "大嫌い"の裏側にあった、本当の選択

 夜風が、思ったより冷たかった。


 私は腕をさすりながら、言ってしまった言葉の重さを噛みしめていた。


(言っちゃった……)


 もう引き返せない。


 平田さんは、しばらく黙ったまま、私の横に立っている。


 街灯の下で、その横顔だけが静かに浮かび上がっていた。


「……中谷さん」


 やっと、彼が口を開く。


「正直に言いますね」


 その前置きだけで、胸がぎゅっと締まる。


「俺、ずっと“上司”でいることを理由に、逃げてました」


 私は、思わず顔を上げた。


「逃げてた……?」


「はい」


 平田さんは、苦笑いを浮かべる。


「踏み込んだら、仕事に影響が出るとか。周りにどう見られるとか」


 視線が、遠くの信号機に向けられる。


「でも、それって全部言い訳でした」


 胸が、じんわり熱くなる。


「本当は」


 彼は、一度だけ私を見る。


「中谷さんが、どう思ってるのか知るのが怖かった」


 ──え。


「好きだって思ってもらえてなかったら、今の距離すら失いそうで」


 その言葉に、喉が詰まる。


(同じ……)


 私と、同じだった。


「だから」


 平田さんは、深く息を吸う。


「月曜の朝も。帰りに一緒に歩こうって言ったときも」


 少し照れたように、視線を逸らす。


「正直、心臓バクバクでした」


 思わず、口元が緩んだ。


「……意外です」


「そう言われます」


 彼は、少しだけ肩をすくめる。


 そして、真っ直ぐに私を見る。


「でも、今日」


 一歩、近づく。


 私は、逃げなかった。


「中谷さんが、ちゃんと気持ちを言ってくれたから」


 声が、優しく低くなる。


「俺も、ちゃんと答えます」


 息が止まりそうになる。


 街灯の光が、やけに眩しい。


「俺は」


 一瞬の沈黙。


 その間に、心臓が何度も跳ねる。


「中谷朱里さんのことが、好きです」


 はっきりと、迷いのない声。


 世界が、すっと静かになった。


 胸の奥で、何かがほどける。


「……え」


 間抜けな声しか出なかった。


「驚きますよね」


 平田さんは、少し照れくさそうに笑う。


「でも、“上司”とか“部下”とか抜きで」


 視線が、まっすぐ重なる。


「一人の女性として、好きです」


 目が、熱くなる。


 泣きそうになるのを必死でこらえた。


「……私」


 声が震える。


「私も……」


 その先を言う前に、平田さんが、そっと手を差し出した。


 触れない、ぎりぎりの距離。


「無理に言わなくていいです」


 静かな声。


「今は、ここまで来れたってことで」


 その優しさが、ずるい。


 私は、そっとその手に指先を乗せた。


 それだけで、心臓が壊れそうになる。


「……ずるいのは、平田さんです」


 小さく言うと、彼は少し驚いてから、くすっと笑った。


「お互い様ですね」


 二人の手は、完全には握られていない。


 でも、確かに触れている。


 その曖昧さが、今の私たちにちょうどよかった。


 夜は、まだ終わらない。


 でも、止まっていた時間は、確かに動き出していた。



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