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第11話 すれ違いの影

「……最近、中谷さん、僕のこと避けてますよね?」


夕方のオフィス。コピー用紙を補充していた朱里の背中に、いきなり嵩の低い声がかかった。

驚いてコピー用紙を落としそうになった朱里は、慌てて振り返る。


「えっ!? な、なに急に……!」


「いや、そう感じるんです。前みたいに雑談もなくなったし、目も合わせてくれないし」


真正面から見つめられて、朱里の胸がドクンと跳ねる。

──だって今は、目を合わせたら絶対バレる。瑠奈が「アプローチ宣言」したことも、心がざわついて仕方ないことも。


「べ、別に……そんなことないです」


「ほんとですか?」

嵩は穏やかに笑った。でも、その目には不安の色がにじんでいた。


「……僕、何かしました?」


その一言に朱里の心がグラッと揺れる。

──何も悪いことしてないのに。悪いのは全部、嫉妬して意地を張ってる私の方。


なのに。素直になれない。


「……そういう、誰にでも優しくするのが……大嫌いなんです!」


またもや飛び出した“三文字”。

嵩は目を丸くし、困ったように苦笑した。


「……それって、僕に対する悪口ランキング第一位ですよね」


「ち、違います! あの、その……」


朱里はしどろもどろになりながらも、うまく言葉をつなげない。

「大嫌い」の裏にある本当の気持ちなんて、とても言えるはずがなかった。


嵩は少し黙り込んだあと、小さくため息をつく。


「……中谷さん、本当に僕のこと嫌ってるんですか?」


「……っ」


その質問は、朱里の心臓を一瞬止めた。

嫌ってる? そんなはずない。むしろ逆なのに。


でも──。


「……そういうことに、しておきます」


強がりの答えが口をついて出た瞬間、嵩の表情がわずかに陰った。


その顔を直視できなくて、朱里は慌てて踵を返す。


「お、お先に失礼します!」


勢いよくオフィスを飛び出したものの、エレベーターの中で思わず壁に頭を打ちつけた。


「……はあぁぁぁ……私、バカすぎる……」


強がりを言えば言うほど、距離が広がっていく。

好きなのに「大嫌い」って言い続ける自分が、一番の敵だ。


──でも。次に会ったら、また言ってしまうんだろうな。


まるで呪文みたいに。



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