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大嫌い!って100回言ったら、死ぬほど好きに変わりそうな気持ちに気付いてよ…。  作者: 菊池まりな


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第108話 雨上がりの"続き"なんて聞いてない

応接室の空気は、朝の静けさと、ふたりの緊張が溶け合ったように、妙にやわらかく、落ち着かない。


 朱里は、手のひらで膝の上のスカートの布をそっとつまむ。

 指先が、いつもよりすこしだけ強く震えていた。


「えっと……その……続きって、どの……部分でしょうか」


 曖昧に笑うと、嵩は「逃げた」と気づいたような目をした。

 でも責めるような色はなく、むしろ困ったように優しい。


「……全部、かな」


「ぜ、全部……!?」


「うん。中谷さんが“また映画行きたいです”って言ったことも、

 その後で急に瑠奈さんに会って、言えなくなったことも。

 俺、ちゃんと話したかったんだ」


 朱里の心臓は、最初のコーヒーみたいに熱くて落ち着かない。


(やっぱり……覚えてたんだ……)


 朱里は自分で言った“また映画行きたい”を思い出して、机の下で足をもじもじさせた。


「……あれは、その……勢いで言っただけで」


「勢いでも、嬉しかったよ」


「っ……!」


 びっくりして顔を上げると、嵩は少し照れたみたいに目をそらした。


「映画の感想、話す中谷さん……すごく楽しそうだったから。

 “また行きたい”って言われて……俺も、また一緒に行きたいと思った」


 反射的に朱里は口を開く。


「あ、あの、それ……誤解されちゃいますよ!?」


「誤解……?」


「る、瑠奈ちゃんに……っ。私たちが週末に会ってるって思われたら……!」


 嵩は目を瞬かせ、そしてふっと笑う。


「中谷さん。“思われたら困る相手”って、瑠奈さんじゃなくて──」


 そこまで言って、嵩は言葉を飲み込んだ。

 代わりに少しだけ真面目な顔になって、朱里のほうを見る。


「……誰?」


「っ……!」


 その一言で、朱里の呼吸は一瞬止まった。


 この質問は、ずるい。

 だって、本当の答えなんて──


(“平田さん、あなたです”なんて……言えるわけ……)


 朱里はあわてて視線をそらし、鞄の端をぎゅっと握る。


「こ、困る相手なんて……別に……」


「じゃあ、なんで土日ずっと気にしてたの?」


「な、なんで……っ!?」


「今日、早く来た理由も」


「そ、それは……朝の準備が早く終わって……」


「それ、土曜日も日曜日も終わってたでしょ?」


「うぐっ……!」


 完全に、逃げ道がふさがれた。


 嵩が机に肘を置き、身体を少し朱里に寄せる。

 近づいた距離が、朱里の心臓の音を大きくする。


「……中谷さん」


「は、はい……」


「“また映画行きたい”って言ってくれたこと。

 俺が勝手に喜んでいいなら……喜びたい」


「……え」


「金曜の“続き”は……それだけ」


 嵩の声は、驚くほど静かで、まっすぐだった。


 朱里は言葉を失い、ぱちぱち瞬きをする。

 そして気づく。


(これ……完全に、

 “また誘うから覚悟してて”

 って言われてる……!?)


「……あの……っ」


 朱里は真っ赤になって、やっとのことで言葉を搾り出す。


「そ、そういうの……突然言わないでください……!」


「言わないほうがよかった?」


「そ、そういう問題じゃなくて……!」


「じゃあ、よかった?」


「っ……!!」


 嵩の少しだけいたずらっぽい笑みが、朱里の胸に追い打ちをかける。


(も、もうやだ……この人、本当に……好きになっちゃう……)


「中谷さん」


「……はい?」


「次の映画。

 一緒に行こう」


 朱里の心臓は、今日いちばん大きく跳ねた。



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