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大嫌い!って100回言ったら、死ぬほど好きに変わりそうな気持ちに気付いてよ…。  作者: 菊池まりな


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第106話 濡れた傘と揺らぐプライド

玄関の照明がふっと灯り、朱里は濡れた傘を軽く振って水滴を落とすと、いつものように玄関脇の傘立てに差し込んだ。コートも丁寧にハンガーに掛ける。

 仕事で疲れ切った夜でも、部屋を煩雑にしたくない──それが朱里のささやかなこだわりだった。


 「ただいま……」


 小さくつぶやきながらリビングに足を踏み入れると、室内は静まり返っている。エアコンの送風音だけが、残った湿気を押し出すように唸っていた。


 ソファに腰を下ろし、朱里は深い息を吐く。

 今日のプレゼン……あの場面までは完璧だった。

 瑠奈の“補足”が入るまでは。


 彼女の後輩であり、最大のライバル。

 そのひと言で、空気が変わった瞬間を思い返すと、胸がざわつく。


 ──なんであんな言い方をするのよ、瑠奈。


 悔しさと、焦りと、負けたくない気持ち。

 混ざり合った感情が、胃の奥で重く沈んでいた。


 そのとき、スマートフォンが震えた。

 画面に表示された名前を見て、朱里は思わず息をのむ。


 「平田嵩」


 今日のプレゼンで、最も評価してほしかった相手。

 でも、彼が瑠奈の意見に頷いたのも事実だ。


 通話か、メッセージか──どちらでもない。

 通知は “未読メール” を示していた。


 朱里は指先でタップした。


《傘、急ぎじゃないので気にせず使ってください。

今日は付き合ってくれてありがとうございました。

ゆっくり休んでくださいね》


「……っ」


 また心臓が騒ぎだす。


(こんな優しい言い方されたら……。どうしろっていうの?)


 朱里は震える指で返信画面を開いた。


《こちらこそ今日はありがとうございました。

傘……明日お返しします。》


 送信ボタンを押した瞬間──。


(明日……会うの?

普通に会社だけど……なんか特別感出てない!?)


 自分で書いた内容にひとりで勝手に動揺する。


 そこへ、すぐに返事が返ってきた。


《明日は土曜ですよ?》


「あっ……」


 やらかした。


 完全に気持ちが浮ついていた。曜日感覚も吹き飛んでいる。


 続けてメッセージが届く。


《無理に返さなくて大丈夫ですから。

天気悪いみたいなので、使ってください。》


 朱里はスマホを胸に抱えてソファに転がった。


「……ほんと、優しすぎる……」


 嫌いを百回言ったら、

 好きがどんどん溢れてきている気がして怖い。


(大嫌い、なんて……もう言えないよ……)


 でも、まだ言えない言葉もある。


 胸のざわざわを抱えたまま、

 朱里はゆっくりと目を閉じた。


(……明日、どうしよう。会えないのに、会いたい……)




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