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大嫌い!って100回言ったら、死ぬほど好きに変わりそうな気持ちに気付いてよ…。  作者: 菊池まりな


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第105話 雨上がりの温度

美鈴たちが角を曲がって消えていくのを見送った瞬間、

 雨上がりの道が、やっと静けさを取り戻した。


 朱里は胸の奥で、ほわっと何かが溶けるような感覚がした。


(……二人きり。ほんとに、二人きり……)


 さっきまでのドタバタが嘘みたいに、足音だけが並んで響く。


「さっき……すみませんでした」

 朱里は思わず切り出してしまう。

「なんか……巻き込んじゃって」


 嵩は、歩くスピードを朱里に合わせるようにゆるめた。


「巻き込んだのは僕のほうですよ。誘ったのは僕なので」


「でも、その……瑠奈ちゃんもいて……」

「賑やかで良かったですけどね」


「いや、賑やかすぎましたよ……!」


 言った瞬間、朱里の声が思ったより大きくて、

 自分で驚く。


 嵩がふっと笑った。


「中谷さんって、意外と感情出ますよね」

「で、出ませんよ……!?」

「いえ、出てます」


 朱里は耳まで赤くなる。


(や、やめて……そんなやさしい顔で言われたら……!)


 なんで“やさしい顔”って自覚してるんですか、この人は。


 嵩はふと立ち止まり、ポケットからハンカチを取り出した。


「……ここ、濡れてますよ」

 そう言って、朱里の肩にそっと触れ──

 雨のしずくを拭ってくれた。


「っ……!」

(近……っ!!)


 一瞬で心臓が跳ねる。


 さっきまでの喧騒なんて吹き飛んで、

 朱里は一歩後ろに下がりそうになる……けど、

 動けなかった。


 嵩は何事もなかったように歩き出す。


「雨、あがってよかったですね」

「は、はい……」


 朱里は内心、


(ぜんぜんよくない……!心臓が落ち着かない……!)


 と思いながら、慌てて後をついていく。


 会社の前まで来ると、嵩が小さく息をついた。


「今日は……ありがとうございます」

「え……私のほうが……」


 朱里が言いかけた瞬間。


 ぽつ、ぽつ──


「……え?また?」


 まさかの二回目の雨。


「なんで今日に限って……!」


 朱里が顔を上げたとき、嵩はもう自分の傘を朱里に差し出していた。


「貸します」

「えっ、でも……平田さん濡れちゃいます」

「大丈夫です。家近いので」


「でも……」


「中谷さんが風邪ひくほうが困りますから」


 その“困ります”が妙にやさしくて、朱里は胸を押さえた。


「……借ります。ありがとうございます」


 嵩は軽く笑って、ひらひらと手を振る。


「じゃ、また月曜に」


 朱里は傘の下から嵩を見つめる。


「……はい。月曜に」


 ほんの数十メートル離れるだけなのに、

 嵩の背中が遠くなる。


(どうしてだろ……。別れ際のほうが、会いたくなる……)


 ふっと、朱里は小さく笑った。


「また……歩けるといいな」


 誰にも聞こえない声でつぶやいて、

 傘を握りしめた。



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