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大嫌い!って100回言ったら、死ぬほど好きに変わりそうな気持ちに気付いてよ…。  作者: 菊池まりな


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第103話 三歩先の距離

夜風がまだ少しだけ湿っていて、雨上がりの匂いが残っている。

 三人で歩く帰り道は、どうしてこんなにも“気まずさ”がよく響くのだろう。


「いや〜、ほんと偶然でしたね!」

 瑠奈はテンション高めに、コンビニ袋をぶらぶらさせながら言った。


「うん、まあ……偶然だね」

 嵩さんは苦笑い。ただ、歩く速度は自然と私に合わせてくれている気がする。


 なのに。


「中谷先輩、歩くのちょっと早くなってません?」

 瑠奈が笑って言う。


「えっ!? そ、そんなことない!! むしろ大嫌いだから早歩きになってるだけ……」

 また言った。

 また言っちゃった。

 大嫌い……本当は全然そんなことないのに。


「大嫌いって言いながら歩幅合わせてくれてるの、可愛いですよね」

 瑠奈がにやり。


「はぁ!? 可愛いとか言わないで! ほんと大嫌い!!」


「……中谷さん」

 嵩さんが横で、困ったように、でもどこか優しい声で呼ぶ。


「な、なんですか」


「それ、照れてるときの言い方だよね?」


 ──死ぬ。


 いや、今すぐ地面に吸い込まれて消えたい。


「ち、ちが……! 違うもん……!」

 声が裏返って、さらに恥ずかしい。


 瑠奈がくすくす笑いながら言う。


「平田さん、絶対わざと言ってますよね、それ」


「別に、わざとじゃないよ」

 と言いながら、嵩さんは少し視線を落とす。

 その横顔が、なんかずるいくらい落ち着いていて、余計に胸が騒ぐ。


 三人で歩いているのに、

 私だけがやたらと心臓の音が大きい。


 そんなとき、瑠奈がぽつりと言った。


「中谷先輩と平田さんって……やっぱり、仲良いですよね」


「なっ──」


「望月さん、変な誤解しないでよ。俺たちはただ、仕事帰りに歩いてるだけで」


 嵩さんが冷静に言う。

 でもその横で、私は反射的に否定してしまう。


「そ、そうですよ!! 上司ですから!! 仕事の!! 上司!!」


 自分で言ってて苦しくなるくらい、“上司”を強調した。


「はいはい」

 瑠奈が苦笑する。


 その空気を割るように、スマホが震えた。

 画面を見ると──美鈴からだ。


《どう?今どこ?また何かこじらせてない?》


 ……なんでバレてるの、この人。


「中谷さん、電話ですか?」

 嵩さんに聞かれて、私は慌ててスマホを握りしめる。


「い、いえなんでもないです!!」


 なんでもなくない。

 めちゃくちゃ今、相談案件が発生している。


「中谷先輩、顔赤いよ」

 瑠奈が覗き込む。


「赤くない!! 大嫌いだからだよ!!」


「いや、その理屈おかしいだろ……」

 嵩さんがため息交じりに笑った。


 ──こんな距離なのに、

 どうして“もう少し先”にいる彼に、手が届かないんだろう。


 夜の道を三人で歩きながら、

 私はまたこじらせの沼に沈んでいくのだった。



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