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大嫌い!って100回言ったら、死ぬほど好きに変わりそうな気持ちに気付いてよ…。  作者: 菊池まりな


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第101話 雨あがり、二人きり…のはずが

「……はい。行きます」


 朱里がそう答えた瞬間、嵩はふっと柔らかく笑った。

 オフィスの窓の外は、さっきまでの雨が嘘のように静まり返り、夕暮れの光が街を淡く染めていた。


「じゃあ、片付けたら行きましょう」


「はい……」


 朱里は胸の奥がざわざわして、いつものようにカバンを閉じるだけなのに手がぎこちない。

 “少し歩きませんか”——ただそれだけのことなのに。


(どうしよう……なんでこんなに緊張してるの)


 同期や友達の誘いなら、こんなに動揺しないのに。





■ オフィスのエレベーター前


 「お待たせしました」と朱里が駆け寄ると、嵩はスマホをポケットに戻した。


「急がなくていいのに。……行きましょうか」


 並んでエレベーターに乗ると、朱里は自然と端に寄ってしまう。

 視界に映るのは、彼のワイシャツの袖、仕草、横顔──

 どれも職場で何度も見ているはずなのに、なぜか意識してしまう。


(落ち着いて……私。何もない。ただ歩くだけ……)


 チーン、と軽い音がして1階に着く。





■ ビルの外


 夕方の風は少しだけ冷たく、雨上がりの匂いがほのかに残っていた。


「ほんとに、雨上がってよかったですね」


「そうですね。……濡れずに済んで良かったです」


 嵩の歩幅は少しゆっくりで、朱里のペースに合わせてくれている。

 それに気づいて余計に胸が熱くなる。


(……優しい。いつもだけど、こうして二人きりだと余計に)


 気まずさをごまかすように、朱里は話題を探した。


「えっと……あの……今日は、どうして私を……?」


 聞きながら、(しまった!)と思った。

 なんだか期待してるみたいに聞こえる。


 しかし嵩は、困ったように笑った。


「別に大した理由じゃないんです。ただ……」


「ただ……?」


「朱里さん、最近ずっと忙しそうだったから」


「え」


「だから今日は、少し気分転換をしてほしいなと思って」


 それは、完全に不意打ちだった。


 怒ってもいないし、説教でもない。

 仕事の話でもない。


 ただ純粋に、気遣いだった。


 朱里は思わず俯いてしまう。


「……そんな、私なんて」


「“なんて”じゃないですよ」


 嵩の声は、いつもより柔らかかった。


「朱里さん、頑張ってるの知ってます。ちゃんと見てますよ」


「……っ」


 胸の奥がぎゅっとなる。


 雨上がりの夕方に、こんな言葉を言われるとは思わなかった。


 思わなかったけれど──

 こんなにも嬉しいとは、思わなかった。


「……ありがとうございます」


 声はかすかに震えていた。


 嵩はそれに気づいたのかどうか、ちらりと朱里を見て問いかける。


「このあと、もう少し歩きます? それとも……」


「歩きたいです。もう少しだけ」


 朱里が言い切ると、

 嵩は微笑んで「じゃあ、行きましょう」と手を軽くポケットに戻した。


 二人は、雨上がりの街をゆっくりと歩き出す。


 そのとき──


「おっ、平田先輩と中谷先輩!」


 突然、後ろから声がして二人が振り向くと、望月瑠奈がコンビニの袋を手に立っていた。


「えっ……瑠奈!? なんでここに!?」


「いや、ちょっと駅まで……って、え? 二人で散歩? え? え??」


 目が完全に“面白いものを見つけてしまった人”になっている。


(やばい……!!)


 朱里の心臓は別の意味で跳ね上がる。


 嵩も「あぁ……」と苦笑していた。



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