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大嫌い!って100回言ったら、死ぬほど好きに変わりそうな気持ちに気付いてよ…。  作者: 菊池まりな


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100/172

第100話 夕方に落ちる影と、揺れる心音

会議が終わる頃、オフィスの空気はいつもより静かだった。

時計の針が「18:03」を指した瞬間——


「中谷さん。少し、いいですか?」


嵩の落ち着いた声が、朱里の思考を一瞬で奪っていった。


(き、きた……!ほんとに来ちゃった……!

夕方の“少しだけ時間、もらえる?”って……

今日、何の話なんだろ……!?)


朱里はデスクの上のペンを落としそうになりながら立ち上がり、

半歩遅れて嵩のあとをついていく。


向かったのは、給湯室の隣にある小さな打ち合わせスペース。

他の人がほとんど帰り支度を始めている時間帯で、人影は少ない。


「ここなら落ち着いて話せると思って」


そう言って、嵩は椅子を軽く引いてくれた。

そのさりげない気遣いだけで、朱里の心拍数は本日最大値を更新する。


「え、えっと……なんの、お話でしょうか?」


自分の声が思っていたより震えていることに気づいて、朱里は内心で頭を抱えた。


嵩は書類を机に置き、小さく息を吐く。


「昨日の件だけど……」


(よ、昨日……!?

えっ昨日の何!?

まさか……まさか映画……?

え、違う?あれ?)


「中谷さん、最近ちょっと無理してるっていうか……」


「む、無理なんかしてません!」


即答。

反射。

そして盛大に裏返る声。


嵩は、一瞬目を瞬かせたあと——

ふっと、穏やかに笑った。


「そう思うならいいんだけどね。

でも、昨日……言ってただろ?」


「昨日……?」


(昨日の私……何喋った……!?

“また映画行きたいです”……!?

違う、これは絶対違う!!)


嵩は朱里の戸惑いに気づいたように、少しだけ端正な横顔を緩めた。


「“もう一人で抱え込まないようにします”って言ってたから」


「あっ」


脳内検索ヒット。

昨日の夜、雨の音を聞きながら、ぽろっと言ったあれだ。


「心配するんですよ、部下が疲れてると」


その言葉は優しいのに、朱里の胸には刺さるように響いた。


(やばい……この言い方反則……)


嵩は続ける。


「無理をしないでほしい。でも、中谷さんが頑張ってるのも知ってる。

だから——ちゃんと頼っていいんですよ」


「……ひ、平田先輩……」


朱里の声は小さく、ほとんど囁きだった。


しかしその瞬間。

ちょうど給湯室から、美鈴が紙コップを落としそうなほど驚いた顔で出てきた。


「……あ。わ、悪い、続けて?」


(なんでこのタイミングぅぅぅぅ!!)


朱里が心の中で叫んでいると、嵩は軽く咳払いした。


「まあ……そういう意味で、今日は少し話がしたかっただけです」


「は、はい……」


美鈴は気を利かせたのか、紙コップを握りしめたまま、そそくさと退散していった。


嵩は立ち上がると、柔らかく笑った。


「帰り、少しだけ歩きませんか?

外、もう雨上がってるみたいだし」


(……え……え……!?

こ、これ……デートじゃ……?いや違……いや、え……!?)


朱里の脳内では

“これは普通の帰り道”

“いや普通じゃない!”

“落ち着け!”

“無理!!”

が激しく衝突していた。


それでも、口から出たのは──


「……はい。行きます」


その返事は、自分でも驚くほど素直で、柔らかかった。


夕方の廊下に二人の足音が重なる。

それは、昨日より少しだけ近づいた距離の音だった。


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