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第10話 ライバル宣言

「中谷先輩って、平田先輩のこと……どう思ってるんですか?」


ランチの帰り道、コンビニ袋を提げたまま隣を歩く瑠奈が、ふいに切り出した。

あまりに直球すぎる質問に、朱里は思わず足を止めた。


「は? な、なに急に」


「だって気になるんです。先輩って、平田先輩と仲良いですよね。つい、この間も営業資料のことで呼び出されてましたし」


「そ、それは仕事だからでしょ」


朱里は声を荒げながらも、内心は動揺していた。瑠奈の目はまっすぐで、無邪気というよりは探るような光を帯びている。


「ふーん……」

瑠奈は唇に指を当てて、わざとらしく考え込む仕草をした。


「私、平田先輩のこと、すごく尊敬してるんです。憧れっていうか……好きっていうか」


「っ……!」


その一言に、朱里の心臓が跳ね上がった。予想はしていた。していたけど、実際に口にされると破壊力が違う。


「だから、中谷先輩がどう思ってるのか知りたくて」

瑠奈はにこっと笑う。その笑顔が挑発のように見えて、朱里は喉がカラカラになった。


「べ、別に……普通の先輩よ。ただの、ね」


「ほんとですか?」

「……ほんとよ!」


否定する声が裏返ってしまった。瑠奈はにやりと笑みを浮かべ、まるでとどめを刺すように言った。


「じゃあ、遠慮なく私、アプローチしちゃいますね」


朱里は思わず立ち止まり、瑠奈を睨みつける。


「な、何それ……宣戦布告ってこと?」


「えへへ、そうかもです。だって恋愛って自由競争じゃないですか?」


──この子、見た目は天使なのに中身は小悪魔じゃないの!?


朱里はぐっと拳を握りしめ、悔しさを必死で飲み込む。

本当は今すぐにでも「嵩先輩は渡さない!」と叫びたい。けれど、そんなこと言えるわけがない。


だから代わりに、つい口から出てしまった。


「……ああもう! 平田先輩なんて、大嫌い!!」


「えっ? えっ!? いきなりどうしたんですか先輩!」


瑠奈が目を丸くする。

朱里は耳まで真っ赤になりながら、慌てて取り繕った。


「ち、違うの! その……あの人、誰にでも優しいから。そういうところが大嫌いって意味で……!」


「なるほど……そういう“大嫌い”ですか」

瑠奈は含みのある笑みを浮かべ、何も言わずに歩き出した。


朱里はひとり取り残されて、胸の奥をぎゅっと掴まれるような感覚に襲われる。


──何やってんの、私。

ライバル相手に「大嫌い」なんて言ってどうするの。


それはまるで、自分の恋心を逆に証明してしまったみたいだった。


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