第88話 理性蒸発!ケンちゃん園!
「さぁ、見るがよい!これが生ケンちゃんを間近で見られる特設ステージだ!」
魔王様の案内で向かった先は、かつて闘技場として使われていたステージ。
その中央には大きいガラス張りの檻が鎮座しており、異様な存在感を放っていた。
<キーキー!
檻の中では、ケンちゃんを含めた私のペットたちが元気いっぱいに駆け回っている。
広い空間を自由に使い、どこかいつもより楽そうじゃ。
『みんな可愛いのう♡お、ワッフルモフモフが毛づくろいをしておる。普段はなかなか見せてくれないのに今日は随分と機嫌がいいのう』
「圧巻であろう?この檻を造るために膨大な予算を費やしたのだ。ここにしかない特設の舞台……存分に眺め、楽しみ尽くすがよい!」
「あの……それはいいのですが、これほど多くの魔族に囲まれていたら流石のケンちゃんでも緊張してしまうのではありませんか?」
<ふひひひ……夢にまで見た生ケンちゃん♡前回はケンちゃん園のチケットを強奪されて死にかけたけど、天は私を見放さなかった♡絶対に交尾するからねぇ♡
<なんだよあのクリクリお目目!写真より可愛すぎるだろ!お”っ!や”っべ!目が合った!これ以上見つめられてたし”ぬ”ぅ”ぅ”!!
<ほら見て!私の婚約者兼、性奴隷兼、幼馴染兼、毎晩仕事で疲れた私に膝まくらして「大丈夫?今日もお仕事お疲れ様♡えらいえらい」って耳かきしてくれる旦那様兼、貴方のパパが居るわよ!
<ママ何言ってるの?パパと結婚するのは私だよ?もうママは交尾したことあるんだから、諦めて自分の指と結婚したら?毎晩愛し合っててお似合いじゃん
<実の娘とて殺すぞ!ガキが!
檻を中心に魔族たちがぎっしりと取り囲み、割れんばかりの歓声を響かせる。
『確かにのう……ざっと見ただけでも三千は下らぬ大観衆。端っこに身を隠す小屋はあるが、これではストレスを感じるかもしれん』
しかも客席が階段状に積み上がっているせいで、幾重にも重なる視線が檻の中を覗き込んでいる。
どれほど図太い者でもこんな状況では震えあがってまともに生活出来ん……わしだってあそこにいたら普通に怖い。
「ふん、それに関しては抜かりはない!前回の教訓を活かし、あの巨大な檻には光を屈折させる特別な魔法を刻み込んでおる」
「あ、聞いたことあり……ます。光の強さによって、鏡みたいになったり透き通ったりする魔法の鏡があるって」
「そうだ。その仕組みを応用してあるゆえ、客席でどれほど変な行動をしようがケンちゃんの目には決して映らん」
「ああ……なるほど。だからここでは衣服の着脱が自由でなのですね。真っ裸の人が多いことに納得がいきました」
『おい、しかも道具の持ち込みまで許可されておるぞ。まさに至れり尽くせりじゃな……とはいえ、わしはこんな大勢の前で脱ぐ気にはなれんが』
注意書きが割と自由なためか、一人でお楽しみタイムに没頭している者が結構な数いる。
あやつらには羞恥心というものがまったく備わっておらぬのか……もはや呆れを通り越して恐怖すら覚える。
「もちろん、ゆっくりとケンちゃんを楽しみたい者用に、観客席の下にはVIP専用の個室が設けておる。すでに半年先まで予約で埋まっており、大儲け間違いなし!我ながら才能が恐ろしいな!」
言われてみれば、観客席の下にはかなり広いスペースがあり、これなら個室を設置する余裕はありそうじゃ。
「けちな魔王様がよくもこんな大金を投入したものじゃのう……む、まるちゃんが何かしておるではないか!」
パン♡パン♡パン……♡
地面で横になっているケンちゃんに向ってまるちゃんが必死にへこへこと腰を打ち付けている……
<がうぅぅぅぅ♡♡♡♡
『あれは……交尾じゃな』
「交尾ですね」
「交尾であるな」
「交尾……です」
まだ合体こそしてはいないが、まるちゃんのあまりにも気持ちよさそうな表情を見ただけで全てを理解できる。
あれは紛うことなき交尾。
きっと、魔王様相手に性の喜びを覚えたケンちゃんが、ペットたちとも交尾するようになったのじゃろう。
<いいなぁ。私もケンちゃんと公共公開ドスケべ交尾がしたい!!!
<そこを代わりなさいまんまる毛玉!貴方の代わりに私がケンちゃんと交尾するの!!
ケンちゃんの成長は嬉しい反面、やはり一番最初の交尾相手がなぜわしではないのかと思わずにはいられぬ。
『魔王様はいいよな……ケンちゃんと交尾が出来て』
「そ、そうだな。じ、実に有意義な交尾であった……うん……」
『……何を落ち込んでおるのじゃ?』
「な、なんでもない!それよりもケンちゃんだ!貴様の希望通り魔物たち全員を檻に入れて、たくさん遊具を揃えたがあれで満足か!」
『うむ……十分だ!』
魔王様の計画では、この広大で何もない空間にケンちゃんを単独で置くつもりだった。
しかし一人では心細かろうと考え、急遽動物たちと一緒に展示することを提案した。
それにあの部屋からケンちゃんを連れ出せば、再度の反乱に見舞われること必至……もうあんな目に遭うのは嫌じゃからな。
『ケンちゃんも回し車で生き生きと楽しんでおるし、依頼してよかったのじゃ」
カラカラ……
「しかし驚いたな……ケンちゃんはオスなのに自ら運動をするとは。吾輩の知るオスといえば、獣人族以外は大抵は家にこもって無気力に過ごすものだ」
『ふふ~ん!わしが毎日運動させているおかげじゃな!この前虫のおもちゃを見せたときは、部屋を駆け回っていい反応をしていたのじゃぞ!』
「ああ、映画10作目『ケンちゃんの日常:交尾の為の大特訓!?濡れ場もあるよ♡』にそんな感じのシーンがあったな。確かにあれは可愛いかった……だがあの時のケンちゃん、虫を怖がってなかったか?」
『まったく……これだから魔物に疎い素人は』
魔王様の素人としか思えない質問に思わず呆れ返ってしまった。
『野生で育った生き物が虫が嫌いな訳なかろう。むしろ魔物を狩ることが出来ない、動物ピラミッド最底辺のケンちゃんにとって虫はすぐに食べたいほど大好物のはずじゃ!』
「だがあの顔は……」
「がはっ!!!」
魔王様と話している最中だというのに、フィーリアがいきなり顔から血を流して倒れる。
『ど、どうしたんじゃ!』
「ケンちゃん……♡エッチ過ぎ……ます」
ガクッ!ビクビク……♡
何かを呟いたかと思うと、体を大きく痙攣させて気を失う。
『まさか誰かが精神攻撃系の呪文を……ケンちゃん!』
檻が魔術で守られているとはいえ、前回の悲劇を思い出して嫌な予感が頭を駆け巡る。
わしは真っ先にケンちゃんの安否を確認する為檻の方向を見た……
『お”っ♡♡♡♡♡♡♡!!!!』
視線の先には服を脱ぎ、神々しいまでに整った体を惜しげもなく披露するケンちゃんがいた。
運動後で火照った体つきは、普段の入浴時とは全く違い力強さと生命力にあふれ、まるで「見て♡触って♡しゃぶりついて♡」と主張しているかのよう。
視界にいれるだけで、体の穴という穴から汁がドバドバ溢れ出る。
『嗅ぎたいぃ……♡嗅ぎたいのじゃぁぁ♡』
まさに食べごろ……♡
もしこれを料理に耐えられるなら焼きあがったばかりのお肉。
もちろん、たっぷりとタレが染み込んだ状態……じゃ。
『ケンちゃんの濃厚でムレムレになった芳醇な汗の香りを嗅ぎたい!いや嗅ぐ!』
この光景をただ眺めているなんて獣人族……いやメスとして失格もいいところ!
わしとケンちゃんの幸せを邪魔するくだらない檻をぶち壊す!いや粉々にしてやる!!
『ケンちゃんと交尾するんじゃあああ!!もう二度と先は越させん!!』
バン!バン!バン!バン!
「ちょ……ルナ様!貴方まで正気を失わないでください!」
わしは他の魔族どもと同じくガラスにベッタリと張り付く。
そして、指の先から下半身の奥の奥まで震わせながら内側の世界を覗きこんだ。




