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第81話 ルーミアの突撃インタビュー

「アウラ♡アウラ♡アウラ♡」


「どうしたんだいケンちゃん?さっきからずっと体をスリスリさせて……たくさん運動したんだから、無理せずに横になった方がいいと思うけどねぇ」


「アウラ♡アウラ♡アウラ♡」


「ふふふ……まともに喋れないほど毒に依存してしまったか。いいよ、あとで解毒してあげるから、今は存分に甘えたまえ」


 なでなで……♡


 アウラさんが甘い声で何かを囁きつつ、ゆっくりと僕の頭を撫でてくれる。


「まあ、解毒しても潜在的な中毒は死ぬまで治らないけどねぇ」


 優しい手つきに撫でられるたびに頭の中がポワポワパチパチして、思考がどこかへ飛んでいく。

 さっきまでアウラさんと何かすごく幸せなことをしていたはずなのに、肝心の部分だけ霧がかかったみたいに思い出せなかった。


「ケンちゃんは私のこと好きかい?」


「うん♡」


 ぎゅっ♡


 アウラさんに抱きしめられている――ただそれだけなのにどうしようもなく幸せで、体の力が抜けてしまう。


「なぁ……アウラよ。吾輩はケンちゃんと……その、交尾したのだろうか?ベッドに運ばれてからの記憶がなくてな」


「交尾の定義によるけど、したんじゃないかい?お、ケンちゃんが頭をスリスリしてくる。なんて愛らしいんだろうねぇ」


 スリスリ♡


「アウラ好き〜♡」


「だが……ケンちゃんから愛を注がれたはずなのに、下腹部に何も感じないのは些かおかしくないか?」


「ふふ、確かにねぇ。中に出された瞬間はそれはもう極上の快感だった……それを感じられないともなれば、不安になる気持ちもわかるよ」


「ん?」


「ん?」


「……………いや、なんでもない」


「そうかい?ならいいんだけど――きゃっ!?も、もうケンちゃん♡いくら私のことが好きだからって、いきなり強く抱きついたら驚くだろう♡」


「アウラァ♡」


 こうして一緒にいられるだけで胸がいっぱいで、ほかのことなんて全部どうでもよくなる♡ 一生ずっと、この時間が続けばいいのに♡


「……………………」


「魔王様?さっきから捨てられた魔獣みたいな渋い顔してるけど、どうしたんだい?」


「いや、まさかとは思うが……貴様、吾輩が気絶している間にケンちゃんと交尾などしてないだろうな?」


「………してないさ」


 アウラさんは額から冷や汗をを流しながら、ばつが悪そうに視線をそらした。


「本当であろうなぁ?嘘なら容赦はせんぞ!?」


「ほ、本当さ。それにもし私が交尾したのなら、ケンちゃんがこんなにも甘えるなんておかしいだろう?オスは激しく交わった後そのメスに恐怖して萎縮する。このケンちゃんの反応はむしろ“してない”証拠さ」


「アウラ♡アウラ♡アウラ♡」


 アウラさんは僕のことどう思ってるんだろう……好きなのかなぁ。好きなら嬉しいなぁ♡一緒に暮らして毎日気持ちいいことしたいなぁ♡


「それはもっともだが……貴様汗だくだし、下の方から妙に濃いオスの匂いがするぞ。本当に“してない”んだろうな?」


「(アウラ♡またして……さっきみたいに胸がぱちぱち弾けるあれ、もう一回して♡)」


 先ほど味わった快楽を求めて、抑えきれない気持ちのまま強く懇願してしまう。


「ほら、ケンちゃんも交尾はしてないと、はっきり言っているじゃないか!」


「そ、そうなのか?まぁ、ご主人様……こほん、ケンちゃんの言葉なら信じるが」


 僕がどれだけ甘えても、アウラさんはマオウさんとの会話に夢中になっている。


 スリスリ……♡


 アウラさんが相手にしてくれないのが気に入らず、思わず体をこすりつけて甘える。

 頭の中は「もう一度、あの気持ちよさを…」という欲求で埋め尽くされていた。


(ふふ、これでケンちゃんは【交尾=最高に気持ちいい行為】と認識したはず。そうなれば、これから数千回繰り返される交尾生活にも耐えきれる……もしかして私ってファインプレーをしたんじゃないかい?)


<コンコン………失礼しますわ!


 アウラさんに甘えていると、どこかで聞いたことのあるよな声と一緒に扉が叩かれる。


「入るがよい。既にケンちゃんとの交尾は終了している」


 ガチャ……


「お初にお目にかかります。私は蝙蝠族――ヒナコウモリ種のルーミアと申しますわ」


「貴様は……確か、“ケンちゃん映画”の制作を任された者だったな」


 ゆっくりと部屋に足を踏み入れたのは、以前に面会したことのある映画監督だった。


「常に高水準の仕上がりに感謝する。毎週新規上映ともなれば相当に苦労していよう」


「ありがたきお言葉にございます。気絶するまで楽しく制作しておりますゆえ、どうかご安心を」


「そ、そうか。お主らもなかなかに修羅の道を歩んでおるな……で、そんな貴様が吾輩に何の用だ?」


 魔王様は苦笑いしながら、映画監督に問いかける。


「はい。この度はケンちゃんとの初めての交尾を経験した魔族として――魔王様にお話を伺いたく急ぎ参上いたしましたわ」


「なっ……い、いや。吾輩も多忙を極めておってな。インタビューなど受けておる余裕などは……」


「いや〜、いいんじゃないかい?ケンちゃんと“初交尾”した者として、その体験を記録に残すのは当然の義務……いや、これはもう歴史的使命と言っても過言じゃないと思うけどねぇ?」


「まさにその通りですわ!妄想の中のケンちゃんを、より生き生きと再現するためにも、ぜひ魔王様のお話を聞かせてくださいまし!」


「くっ……だが、吾輩には交尾中の記憶がほとんど残っておらぬ。この状態で何を語ればよいか……」


「それならば安心したまえ。人間族の交尾に関しては、た〜っぷり研究してあるからねぇ………矛盾がないようナビゲートしてあげようじゃないか」


 二人が小声で相談を交わす様子を見守る中、最終的に方針が決まり、僕たちはついに映画を制作することになった。



===================



「ではまず、お名前とご年齢をお伺いしても?」


「吾輩は魔王……年齢は312歳である」


「312歳……ケンちゃん年の差は約300歳ほどと。魔王のお仕事って街の復興や財政の管理をしてるんですよね?忙しそうですわ」


「ああ……机に向かって書類をさばく毎日だ。寝られる日より、寝られない日のほうが圧倒的に多い」


「それはそれは……色々とたまりそうですわね(笑)。朝食は何を召し上がりましたか?」


「……魔猪の燻製だ。脂が乗ってて大変美味であった」


「なるほど。それにしても魔王様のお身体、かなり引き締まってますが何か筋トレを……」


「おい!さっきなんだこの意味のわからないインタビューは!やる意味ないだろ!」


 カメラを手に構えながら、事前に調べればすぐにわかるような質問を次々と投げかけてくるルーミア。その回りくどい様子に吾輩は苛立ち、思わず叱りつける。


「こんなどうでもいい質問より、もっとケンちゃんに関することを聞かぬか!」


「な、何を言いますの!このインタビューがあるからこそ【あっ、これからケンちゃんと交尾するんだな】って心構えと感情移入が出るのですわ!これ必要不可欠な前フリなのですわ!」


「そんなことは知らぬ!吾輩は時間がないと言っているだろう!要点をまとめて手短に済ませよ!」


「くっ……わかりましたわ。ではケンちゃんとの出会いや第一印象の質問は飛ばして……ケンちゃんとはどんな交尾をしたんですの?」


「く……ケンちゃんとは……」


 自分で質問しろと言ってなんだが、答えにくい質問をされる。


 クソ!なぜ吾輩はケンちゃんとの交尾時の記憶を失っているのだ!

 魔王人生で最大の不覚と言わざるを得ん!


 これは昔、滅ぼしてはならぬ村を、誤って焼き尽くしてしまった事件よりも遥かに重い過ちだ!


「こほん。そこについては交尾の立会人たる私が、責任をもって説明させていただこう」


 吾輩がどう返せばよいか迷って沈黙していると、近くにいたアウラが助け舟を出してくれた。


「ケンちゃんとの交尾は私が……こほん。魔王様が上に跨る一般的な交尾スタイルで行なわれていたよ」


「ふむふむ……」


「最初のうちは、ケンちゃんも訳が分からんかったようで、周囲を見渡して落ち着かない様子だった。しかし、私がそっと――いや、失礼。魔王様がそっと抱きしめると不思議と安心したようでね。なんとケンちゃんから抱き返してくれたんだよ。いやぁ……あの瞬間の温もりは今でも忘れられないねぇ」


「なるほどなるほど……」


 ルーミアは、まるで実際に体験したかのように語るラミィの話を、熱心にメモを取っていく。


「ケンちゃんは頭を優しく撫でると目を細めて、トロンとしたなんとも言えない可愛い顔をするのさ。あれを見た瞬間、母性本能が刺激されるというか【絶対にこの子は私が守る!」と強く思ったねぇ」


「……………」


「あ、そうそう!キスをした時に気づいたんだが、ケンちゃんが本当に気持ち良い時は、舌をちょこんと突き出して「もっと♡」って顔をするんだ。あれは非常にエロかった。交尾本の文化発展の為にも、あの顔には名前をつけたいね。”ケンちゃん顔”なんてどう……」


「待てアウラよ!」


 吾輩はカメラの前に大きく立ち塞がり、撮影を止めた。


「なんだい?今はケンちゃんの魅力をたっぷり語っている最中なんだから邪魔しないでほしいねぇ。まだ中に出されたシーンにも入ってないんだよ?」


 これからが本番だったのか、話を遮られたことで機嫌を悪くしたアウラは鋭い視線をこちらに送りつける。


「念のため貴様に問う。ケンちゃんとは本当に交尾してないのだな?」


「はぁ……魔王様はほんとにしつこいねぇ。これは研究から導き出された推測と、魔王様自身が体験したことだろう?」


 アウラは半分呆れ半分からかうような笑みを浮かべながら、やれやれと言わんばかりに両手を上げた。


「そうか何度もすまぬな……そういえば、貴様の下半身に白い汚れが付いているがそれはなんだ?」


「なにっ!もったいない!早く戻さないと元気いっぱいの赤ちゃんが生まれない……って、何もないじゃないか……………あっ」


 自分の失言にハッと気づいたのか、無様に口を開けて固まる。


「アウラ……………貴様処刑な」

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