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第79話 さあ、愛の儀式を始めようぞ!

「やっぱり優勝は魔王様か……さすが、魔界最強の名は伊達じゃないねぇ」


「お世辞はよい……で?交尾はいつだ?」


『魔王様!今ここでわしと勝負じゃ!』


「敗者と戦う意味はない……それより、交尾はいつだ?今か?今ここでするのか?」


「優勝おめでとうございます魔王様。これでルナ様のお城も無事に………」


 ガシャン!


 皆でなんとか交尾の件をはぐらかそうとすると、天井の一部が鈍い音を立てて崩れ落ちる。


 まあ……オスをめぐる戦場にされたんだ、こうなるのも無理はないねぇ。


「安心するがよい。城の修復費についてはある程度魔王軍が補填する。それよりも脱落者の確認は済んだか?ちゃんと指示通り名前と住所を控えておるだろうな?」


「もちろん対応済みさ。城内で気絶している人数次第で変動の可能性はあるが、現段階で800名分の聴取は完了している。問題はないよ」


「ならばよい………あぁ!疲れた!」


 魔王様は一仕事終えたような様子で背を伸ばす。

 まだまだ仕事は山積みで激務が続いているはずなのに……ご苦労なことだねぇ。


「魔王様、お疲れのところ恐縮だが一つ質問いいかい?」


「よい。申してみよ。吾輩はいま上機嫌であるからな」


「それは助かる。じゃあ聞かせてもらうけど、私とラミィ君が戦った時に魔王様が見せたあの魔法……あれは一体なんだったんだい?あんなもの文献でも見たことがないよ」


「空間にヒビが入ってましたね……私も少し気になっていました」


「ああ、あれは古代魔法の一種でな。危険すぎて封印されていた“時空魔法”だ」


「“時空魔法”……」


「元々は人間族によって編み出された魔法だったらしい。だがあまりにも強力で、多用すれば世界にひびが入り崩壊すると言われていてな……それゆえ禁術として封印されているのだ」


「魔王様……」


「なんだ?さすがのラミィでもこの魔法は教えられんぞ。これは魔王のみに許された、王の証のようなものだからな」


「いや………ケンちゃんと交尾したいからって、そんな世界壊すような危険な魔法を使わないでもらえるかい?」


「だ、大丈夫だ。時空の穴が一つや二つ開いただけなら問題はない。変に維持しようとしたり、大量展開すると危険って話だからな」


「だとしても、ケンちゃんが近くにいるのにそんな魔法を使わないでほしいねぇ!!!」


 そんな物騒な話を聞かされたら、さっき目の前に落ちてきた瓦礫がその時空魔法の影響だったんじゃないかと疑ってしまう。


「く……だってあんなケンちゃんのエロい写真を見せられたら諦めるなんて無理であろう!たとえこの世界が終わっても、ケンちゃんと交尾できれば吾輩は悔いはない!!」


『つまりあれか?魔王様はケンちゃんとの交尾と世界の命運を天秤にかけた結果……』


「ケンちゃんを選んだと……はぁ」


 思っていた以上に、魔王様はケンちゃんに夢中らしい。


 以前確保したオスを我慢していた魔王様なら、なんとか言いくるめて交尾を延期出来ると思っていたが……これはちょっと厳しいかもしれないねぇ。


「ええい!そんな細かい話はどうでもよいであろう!どんな手を使おうと吾輩は戦いに勝利したのだ!大人しくケンちゃんと交尾させるがいい!」


「しかし魔王様、今回の目的は城を穏便に奪還すること。こうして目的が達成された以上、無理に交尾をする必要はないと助言させてもらうよ」


「貴様……なにが言いたい?」


「要するに、ケンちゃんも長旅で疲れているんだ。交尾そのものは別に後日でもーーー」


「…………やだ!」


「魔王様?」


「やだ!ケンちゃんと交尾するの!」


「しかし……」


「ええいうるさい!吾輩がどれだけケンちゃんのために働いてきたと思っている!ケンちゃんによって狂った魔族の後処理や、ケンちゃんグッズ生産工場の確立!何日も何日も徹夜しているというのに……それでもケンちゃんに会えない!そんな惨めな気持ちをケンちゃんのそばにいる貴様らにわかるはずがなかろう!!」


 一瞬だけ幼児退行した魔王様は、ラミィ君の尻尾からケンちゃんを『ズボッ!』と引き抜いて勢いよく抱きしめる。


「ゆえに、今ここに宣言する!吾輩はケンちゃんと今日中に交尾してそのまま結婚する!これは王命であり異を唱えることを禁ずる!」


「ふにゃ?」


 おぉ………言い切ったねぇ。言い切ってしまったねぇ。


「文句のある者は即刻処刑である!」


 しかも王命まで使うとは……どうやら魔王様は本気らしい。


「悔しいがこうなった以上仕方ない。せめてケンちゃんにトラウマが残らないよう誘導する方がいいかもねぇ」


『おい!アウラ!何を諦めておる!わしは断じて認めんぞ!魔王様とケンちゃんとの交尾には反対じゃ!』


「ルナ様……お気持ちは分かりますが、魔王様は正式な勝負に勝ち交尾の権利を手に入れたのです。今さら否定するのは難しいかと」


『ぐぬぬ……!悔しいのじゃぁぁ!!誰よりも先にケンちゃんを堕とすはずだったのにぃぃ……!』


 ルナ君は頭を抱えて床を転げまわる。

 その気持ちは理解できるが、もう少し抑えた方がいいねぇ。ケンちゃんが不思議そうな目で見つめているよ?


「ふ、そういうわけで、今からケンちゃんとの交尾を執り行う。邪魔者は直ちに離れよ!」


「魔王様、少々待ちたまえ」


「なんだ!これ以上吾輩を焦らすなら、その首跳ね飛ばすぞ!」


「いや、交尾をするのは結構だが、魔界の規則でオスと交尾する際には回復魔法を扱える者の同席が必要だ」


「…………それは絶対か?」


「魔王様が率先して破れば、他の者たちも守らなくなるから諦めたまえ」


 嫌そうな顔を浮かべる魔王様を前に、説得の言葉を重ねる。


「立ち合い人として、私かラミィ君のどちらかを選んでくれると助かるよ」


 とはいえ、この監視体制を整えていたにもかかわらず、前任者の心は壊れてしまった。


 カマキリ種の“交尾中にオスをそのまま捕食する”という性癖のせいではあるが、魔界の規則で各種族の交尾方法を強く否定することもできない。


 所詮これは、命だけはどうにか守れるという程度でしかないというこの現実がなんとも歯がゆい。


 できればケンちゃんとの交尾が一般開放される前に、何かしら手を打っておきたいところだねぇ。


「……仕方あるまい。ではアウラよ、交尾の立ち会い人は貴様に任せる。貴様は口が堅いからな」


「了解したよ」


 ん……?口が堅い?それはどういう………


「で、吾輩はどこで交尾すればいいのだ?」


「あ、ああ。交尾の場所だが……ケンちゃんが普段寝泊まりしている寝室を使うのがよいだろうねぇ」


『はぁっ!?なぜわしの聖域とも言えるペット部屋を他人の交尾に使わせねばならんのじゃ!?ケンちゃんを寝取られただけじゃ飽き足らず、今度はわしの寝室まで奪おうってのか!?どこまでわしを踏みにじれば気が済むんじゃーっ!!』


 そう叫びながら、ルナ君のジタバタと子どものように暴れ回る。


「だってあの部屋にはフカフカのベッドがあるし、何よりケンちゃんがいつも過ごしている場所だ。知らない密室より、慣れた空間の方がストレスも少なくて済むだろう?」


『それでも嫌じゃ!寝室まで奪われるなんて……そ、そんなの、わしは耐えられん!ほとんど同じ環境のラミィの部屋を使えばよかろう!?』


「私ですか?確かによくケンちゃんを連れ込んで遊んでますが……」


「もちろん、ラミィ君の部屋でも問題はないさ。ただこの提案にはルナ君にとってもちょっとしたメリットがあるんだよ」


 ピク……


『メリット?』


「ああ、想像してみてくれ。ケンちゃんがルナ君のベッドの上で交尾するんだ。枕やシーツにケンちゃんの濃厚で甘い匂いが”べっっっとり”と染みつく……最高の香りだろうねぇ~」


『寝室にケンちゃんの匂い……つまりこれは実質番を表すマーキング♡よし!許可する!ケンちゃん!わしのシーツを思いっきり汚すのじゃ!』


 ルナ君が馬鹿でよかった……と思ったけど、鼻が良い獣人族からしたらけっこう大事なことなのかもしれないねぇ。


「決めごとは以上か?もう脳内が交尾!交尾!とケンちゃんでいっぱいなのだ!はやく交尾をさせるがよい!」


「一応これで終わりだが……ケンちゃんにとってはこれが初めての交尾だ。くれぐれも無理をさせたり強引なことはやめてくれたまえよ?」


「わかっておる……ふふ、ではケンちゃん♡ 吾輩と一緒に、世界を統べるに“次期魔王”を創造しようではないか♡さあ、愛の儀式を始めようぞ!」


「アイのギシキ?それってドウイウ……意味?」


 そう甘く囁くように言い放ち、心を奪われた様子の魔王様は急ぎ足でケンちゃんを連れていく。


『ケンちゃ〜ん!終わったらぎゅ〜ってして、頭なでなでして、ほっぺにちゅーもしてあげるからのう! だからいっぱい出してがんばるのじゃ~……ぐすん』


「ねぇ……ドウイウ……意味?」


 とある魔王幹部のお城……後に大事件を巻き起こすことになる、ケンちゃんと魔王様の交尾がいま始まろうとしていた。

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