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第77話 最強の存在……魔王!

「どうした……ケンちゃんと交尾したいという貴様らの執念はそんなものか!」


<ぐへぇっ!


 一撃で昏倒した魔族の首根っこを掴み、躊躇なく外へと放り投げる。


 あぁ……実に楽しい!!!


 日々退屈な書類仕事にうんざりしていた吾輩にとって、こうして拳を振るえるのはまさに至福のひととき。


 しかも今回は、愛すべきオスを守るという立派な大義まである。

 まるでおとぎ話に出てくる、王子を守る女騎士のようで胸が高鳴るわ!


「さぁ早くかかってくるがよい!ケンちゃんを守るのは吾輩だ!」


 ふむ、こんなにもストレス発散になるのなら、吾輩も適当な理由を付けて進軍してみるのもありかもしれん。

 人間族に頼んで、滅ぼしがいのある街を用意させるのも悪くないな。


「クソ!なんで魔王様が参加してんだよ!あんな化け物にか勝てるわけないだろ!」


「でも……ケンちゃんと交尾するためには、ここで引くわけにはいかない!いっけぇ!【ファイヤーチェイン】!」


「その程度か……ふんっ!!!」


 飛んできた火の玉を拳で迎え撃ち、そのまま粉砕する……ぬるいな。


「ちょ……なんで火の玉殴って平気な顔してるのよ!」


「そんなの吾輩は魔王であるからにきまってるであろう。魔王とはこの世で”最も強い種族”に与えられる最強の称号だからな」


「ぐぬぬ、魔王なんてただの世襲制のくせに……!【ファイヤーチェイン】」


 べチン!


「ふ、何か勘違いをしているようだから訂正してやろう。確かに、魔王という地位は代々同じ血筋の者が受け継いできた」


「そうよ!戦って実力を証明したわけでもないくせに、“最も強い種族”を名乗るなんて、そんなの魔族を従わせるためのプロパガンダでしょ!」


「戦って実力を証明する……か。残念ながら吾輩にそれは無用。なぜなら、吾輩はこの魔界において唯一にして種を超越し融合した存在――キメラ族だからな!」


「キメラ族………?」


 耳にしたことのない単語なのか、目の前の魔族は首をひねる。


 仕方あるまい……ここは懐が深い魔王として、一つ教えてやるか。


「キメラ族とは本来交わらないはずの多種族同士の交配で生まれるハイブリット。生まれながらにして“特別”なる存在。最高、最善、最大にして最強の存在…………つまり、生まれながらの魔王なのだ!」


「あっそ!ご丁寧に講釈ありがとうございますぅ!でもいくら魔王様が強かろうが……数の暴力には勝てないはず!みんな今よ!」


 せっかく吾輩が懇切丁寧に、魔王という存在の偉大さについて語っていたところ、数十名の魔族が現れ攻撃してくる。


 それはあらゆる属性魔法に投げナイフ。さらには人間族の技術とされる“銃”まで取り出し、吾輩めがけて一斉放火をしてきた。


「やれやれ仕方ない……【世界断裂】」


 ス……


 吾輩のつぶやきと同時に、飛来していた魔法もナイフも空中でピタリと静止する。


「まだ魔王が“最強”たる所以――古代魔法についての説明を終えていないというのに無礼な奴らだ。礼儀というものがなっておらんな」


「…………」


「まぁよい……貴様らに聞く耳がないというのなら、その愚かさをその身で味わわせてやろう。もっとも、起きたことを理解できればの話だがな」


 スタ……スタ……スタ。


【虚界修復】


「え…………消えたってわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 パリン!パリン!パリン!


 吾輩が手を軽く右へ滑らせると、まるで横へ落ちるかのように、廊下にいた魔族が外へと放り出された。


「わざわざ時間稼ぎに付き合ってやったのに、その程度の仲間しか呼べないとは実に情けない……」


 もっと手強い相手はおらんのか?


 先ほど遭遇したリーダーを名乗る輩も、数発殴っただけで終わってしまう拍子抜けだった。

 こんな程度の実力で、なぜ城を攻めようと思ったのか理解に苦しむ。


 グラ……


「っと……やはり古代魔法は魔力の消耗が激しいな。調子に乗って使用したが……まぁルナがいなければ問題はないだろう。奴以外ならフィジカルで押し切れる」


 本当は奴と戦ってみたかったが、脱落したなら仕方がない。そのルナを倒した相手が真の強敵であることを祈るのみだ。


 そんな微かな希望を胸に抱きつつ、吾輩は部屋への扉をゆっくりと開ける。


 ガチャ……


「む……これは蜘蛛の糸か?」


 部屋に足を踏み入れると、無数の蜘蛛の糸が複雑に張り巡らされているのが目に入る。


 つまりここには……


「やぁやぁ!魔王様!ご機嫌いかがかな?」


「やはりアウラか。貴様が残っていてうれしいぞ」


「どこかの脳筋城主と違って私はちゃんと隠れていたからねぇ。あまりにも暇だったから、こうして魔王様と戦う舞台も整えておいたのさ」


「ほう……打算で動く貴様が、吾輩と戦うとはな。姿を見せぬから優勝は諦めたのかと思っていたぞ」


「たしかに、普通のオスならその選択肢を取っていたかもしれないが、あいにく心の底からケンちゃんが大好きでねぇ……たとえ全身の骨が砕けようとも、交尾する権利だけは勝ち取りたいのさ」


「貴様……本当に人が変わったな」


「ふふ、これもケンちゃんのおかげさ……」


 昔はオスをただの実験道具や研究資料としか見ていなかったというのに。今はまるで、宝物を愛でるかのようなうっとりした表情を見せておる。


「さて、本当はルナ君を囮にもっと面白い仕掛けを考えていたんだが、いつの間にか消えていたからねぇ。妥協策で勘弁してくれたまえ!」


 プシュ!


 天井に糸を射出したアウラは、振り子の要領で一気に加速してこちらに向かって突進してくる。


「ほう、真正面から来るか……おもしろい!受けて立とう!」


 バキッ――。


「なっ!」


 思いきりぶん殴ってやろうと足に力を込めたその時――地面が一気に凍り、吾輩の両足が氷に包まれる。


「それじゃあ動けないだろう?こっちは格上を相手にしてるんだ。最初の一撃くらい譲ってくれたまえよっ!」


 バリバリバリバリッ!!


 「あっ……がっ……」


 アウラの手から伸びた奇妙な装置が吾輩の胸に突き刺さり、電撃が全身を駆け抜ける。


「いや~ケンちゃん用に発注していた“対魔族用電撃アンカー”が奪われてなくてよかったよ。ケンちゃんに触れる不埒な輩は殺しても構わないってことで、かなり強力だからねぇ」


 バリバリバリバリッ!!


「くそ……がっ!!」


 胸に刺さった憎たらしい金属の棒を抜き取り、思い切り床に叩きつける。


 これほどの衝撃は今日一……いや、ここ数年で一番だ。


「はぁ…はぁ…この程度の氷………ふんっ!!」


 だが、この程度のダメージなど取るに足らん。まだ痺れが残る体に鞭を打ち、凍りついた両足を力ずくで引き抜いた。


「相変わらず、ルナ君に負けず劣らずの馬鹿力だねぇ。でも、その力もツルツル滑る床の上じゃ本領を発揮できないだろう?」


 なるほど、床を凍らせたのはこのためか……こっちは滑る氷の上でで戦う反面、向こうは蜘蛛糸を駆使して天井や壁を自由自裁に動き回れる。


 今の状況はアウラにとって圧倒的に有利……ならば!


「肉弾戦で不利ならば、魔法で勝負すればよい!吾輩と同じ土俵に堕ちよ!【グラビトン!!!】」


「く……」


 部屋全体……いや、氷魔法を使ったと思われる協力者の動きを封じるためにも、重力を数倍に跳ね上げる魔法を城全体にかける。


「ふ……これは吾輩にも影響が及ぶなかなかにピーキーな重力魔法。だが吾輩が重くなったことで滑りにくくなってしまったなぁ!」


 ドスッ!バキ!ドスッ!バキ!


 天井から落下し、身動きの取れないアウラに向かって、一歩……また一歩と近づいていく。


「このまま外に放り投げて――」


 バンッ――


 吾輩の肩に、小さな塊がぶつかる。


「ほう、銃か……だがその程度、吾輩をひるませるのが関の山だぞ」


「たしかに初めて使ったが、威力は弱いし装填は遅いしでまったく使えないねぇ。所詮人間族の武器……だが時間は稼げたさ。ラミィ君!」


「かしこまりました!」


 パリパリ!


 吾輩の背後――部屋の扉から現れたラミィと吾輩の間に大きな氷塊が形成される。


「やはり部屋の外に協力者がいたか、だがその程度の氷魔法など……」


「効かないだろうねぇ……だからこう使うのさ!」


【ファイヤーボール!】


 氷塊に火球が直撃し、部屋の中が白い霧に覆われる。


「なるほど……あの氷魔法は単なる攻撃手段ではないのか!」


 氷塊に付着していた水蒸気が火球の熱で一気に蒸発。その蒸気が床の氷によって冷やされ凝結することで漂い霧が発生する。


 おそらく床に張られた氷もこの瞬間を想定して最初から仕組まれたもの……だが!


「この程度の小細工が魔王に通用するわけないだろう!目で見なくても気配でわかる……そこだ!」


 重力魔法を解除し、感じ取った気配に向かって拳を振り上げたその刹那――


 キラーン!


「ケ、ケケケケケケンちゃん!?」


 目の前には、なんともエロエロで無防備な格好のケンちゃんが私をお出迎えする。


 え、いや、ちょっと待て……なんだその朝チュンの極みのような表情は!?


 髪は乱れてるし、頬はほんのり赤い!


 吾輩はケンちゃんと結婚してたのか……いや、してた気がしてきたぞ。むしろしてなかった世界線の方が異常なんじゃないのか!?


 突然供給されたケンちゃん成分によって、全身の動きがピタリと止まる。


「どうだい?それはまだ一般販売していない……ケンちゃん写真集のシークレット番号52【寝起きのケンちゃん】さ。ボサボサの髪にとろんとしたお目目が素晴らしいだろう?」


 バシ!


「な、しまっ……ぐわあああ!?!?」


 吾輩の腰に、ねっとりと粘着質な糸が絡みつく。


「直接倒さなくても、城から一度出てしまえば棄権と同じで脱落……最初から私たちの狙いはこれだったのさ!ラミィ君!」


「はい!これで終わりです!はぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 二人に糸を掴まれ、吾輩の体はそのまま窓の外へと放り投げられる――



<バキッッ!!!>

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