第76話 待機組は比較的まとも……?
「あびゃ♡びゃ♡びゃ♡びゃ♡びゃ♡♡♡」
バタン!
なぜか突然始まった、僕による使用人たちへの“よしよし”イベント。
まったく状況がつかめないまま応じていたら、いつの間にか1時間が経っていた。
「次は私!私の番!」
交代の時間になるや否や、前の人をぐいっと押しのけて、我先にと僕に抱きついてくる。
「おほ~!ケンちゃんの匂いぃぃぃ!!これこれこれこれぇぇっ!!脳が焼けるほど甘くて野生本能をぶち壊すこの匂いぃぃぃ……今日こそ本物♡」
正直、僕なんかに触れられて何がそんなに嬉しいのか、まったく理解できない。
需要と供給のバランスが完全に崩壊してるようにしか思えないけど、次々と現れる使用人たちは、心底嬉しそうに僕に抱きついてくる。
……もしかして、僕ってこの世界で特別な存在なのか?
何が特別なのかは、まったくわからないけど。
「マリア……おはよう……デス」
「お”ぉ”♡……」
バタン!
どうせならと、最近覚えた言葉を使用人の名前を呼びながら披露しているのだが――何人かは頬を引きつらせて怒り出し、別の何人かはその場でバタッと気絶してしまう。
「オスからの……ご挨拶ちゅっ♡♡……あぁ、ケンちゃんとの甘くて切ない思い出が次々に湧いてくるぅ♡……はっ!思い出したっ!そうよ私はケンちゃんの幼なじみで、結婚を誓い合った運命の相手だった!!」
おかしい……普通に”おはよう”とかそんなレベルの言葉なのに。イントネーション間違えたかな?
さわっ………
「あひっ……!」
油断していると、突然僕のズボンの中に手が滑り込んできた。
獣人特有のフワフワとした毛が皮膚を刺激して、くすぐったさと驚きが一気に襲ってくる。
「ピピー! ケンちゃんの服の下に手を入れるのは、ケンちゃん大好きクラブ【健全版】の規則違反です。よってレッドカードで即退場となります!」
「なっ……離してっ!別にこのくらい許してよ!ケンちゃんは私の目を見て名前を呼んでのよ!?ならもう、交尾してもいいはず!」
「ダメですよ!ケンちゃんは誰にでも尻尾を振る、無知でムチムチな天然の淫乱オスガキなんですから!何をされても本気にしちゃダメって、“ケンちゃん100カ条”にも書いてあるでしょ!」
「うるさい!モフネだってそんなすました顔をしてるけど、名前を呼ばれた瞬間尻尾が大回転してたじゃない!」
「それは……まぁ……そうですけど」
「だったらもう襲うしかないでしょ!それがケンちゃんへの――礼儀だ!」
「わっ………」
虎のような見た目をした獣人が拘束を振りほどき、僕を抱きかかえてそのまま走り去る。
「さあケンちゃん♡幼なじみ同士、あっちで気持ちいいこと……しようね♡」
ドタバタ……
「……ん?なによこの足音?」
バタン!
「がう!」
「(あっ、まるちゃんさん!?お久しぶりです――うげっ!)」
突然城の扉が開いたかと思えば、まるちゃんさんが猛ダッシュで飛び出してきた。
「うぐっ……」
そしてそのまま、僕を抱えていた獣人さんごと勢いあるタックルをくらわす。
ドタバタ!ドタバタ!
僕を抱えていた獣人が勢いよく弾き飛ばされ、遠くの地面へ転がっていく。
空いたスペースを見逃すまいとするように、まるちゃんさんや部屋にいた動物たちが次々と僕にのしかかってきた。
ペロペロ!ペロ!ペロペロペロ!ペロ!ペロ!ペロペロ!
ぬるりとざらついた舌が、全身を執拗に舐めまわしてきて、思わず身をよじってしまうほどくすぐったい。
「がうぅぅうぅ!がう!がう!(まったく……また勝手に姿を消しおって。今日も貴様の子種を搾り取ってやるから覚悟しておくのだぞ?)」
ペロペロ…………
今日はいつも以上に甘えたい気分のようで、気がつけば視界のすべてがモフモフの毛に覆われていた。
フワフワで癒される反面、さすがにこれだけの動物に密着されると、じんわりと暑さを感じる。
ペロペロ…………
「ちょっと何よアンタたち!次は私がケンちゃんに名前を呼ばれる番よ!魔物風情が邪魔をするんじゃな………」
バチンッ!
「(あの……まるちゃんさん?今、耳を疑うようなすごい衝撃音が聞こえたんですけど……何かしました?)」
「がう!(気にすることはない。我の時間を邪魔する愚か者を、少しばかり懲らしめてやっただけだ。貴様は余計なことを考えず、ひたすら我を楽しませることに集中せよ)」
===================
なでなで………なでなで………
「(まるちゃんさんは相変わらずモチモチて気持ちいいですね…………なんか太りました?)」
ぷにぷに………ぺチ!
お餅のような柔らかさに誘惑されて、ついまるちゃんさんの贅肉を摘むと手をはたかれた………どうやら気にはしているらしい。
「(ごめんなさいまるちゃんさん。今は大事な“なでなでタイム”でしたね~)」
なでなで、なでなで……
「がう~♡」
使用人たちから解放されたのも束の間、今度は動物たちに四方を囲まれ、日課のなでなでタイムが始まる。
「(それじゃあ次はお耳を触りますよ~。くすぐったいかもしれませんけど、ちょっとだけ我慢してくださ~い)」
クニクニ……
「(痛くないですか~?)」
「がうぅぅぅ♡♡♡……」
そっと耳を撫でていると、動物たちは幸せそうに目を細める。そんな表情を見るだけで、僕までふっと力が抜けて和んでしまう。
『ケンちゃ~ん!そろそろペット以外に、私のことをなでなでしてほしいのじゃ~。ケンちゃんの貞操を守るためにけっこう頑張ったのじゃぞ~!』
ガブッ!
『いたたたたた!!!!』
床を這って近づいてきたルナさんに、まるちゃんを含む数匹のペットが一斉にかぶりつく。
「もう……ルナ様はもう少し安静にしてください。さっきまでボロボロだったのを私がわざわざ引っ張ってきたんですよ?痺れもまだ残ってますし……」
『うう……すまないルーシー。しかし、どうしてもケンちゃんからの愛を感じたいのじゃ!交尾ができない分せめてここで癒されたいのじゃ!』
「そう言われましても、ルナ様は脱落されたんですから仕方ありませんよ……」
視界の端では、暴れているルナさんをルーシーさんが必死になだめていた。
「私は参加していませんが……敗者にできるのは、優勝した人がケンちゃんに優しくしてくれるよう願うことだけですよ」
『そんなの嫌じゃ!運よくラミィが優勝してなんとか交尾権を譲ってもらえるよう交渉できんかのう……』
「さすがに無理だと思いますよ……私だって喉から手が出るほど欲しいですもん」
『そうじゃよな……あ、脱落といえば。もう半数以上の脱落者が出たと聞いたがその者たちはどうなったのじゃ?一発殴りにいきたいのじゃが』
「ああ、それならあっちで手続きの後に返したって言ってましたよ?」
『な!?侵入者を返したのか!なぜじゃ!』
ルーシーさんが遠くを指差すと、ルナさんの耳がぴんと跳ね上がり、驚いたようにそちらを見つめた。
そういえば、さっきからあちらへ人がたくさん向かっているけれど……何か催しでもあるのかな?
「えっと……魔王様の話では、収容するための牢屋が不足しているからだそうです』
『なんじゃそれは!奴らはケンちゃんの貞操を狙い、わしの家族のように大事なペットを傷つけたのだぞ!だというのに何の咎めもないのか!到底納得できん!それ相応の罰を所望する!』
「私に言われても……あ、でもちゃんと罰はあるみたいですよ。確か魔新聞のケンちゃんコーナーに、今回ケンちゃんを襲った連中の名前と住所が掲載されるらしいです」
『…………それのどこが罰なんじゃ?』
ルナさんが眉をひそめ、納得がいかないといった顔を浮かべた。
「いやいや、結構な罰ですよ、これ?」
『そうか?2度とケンちゃんに触れぬよう腕を切り落とすほうがよほど良いと思うがのう……』
「なら想像してみてください。もし、身近な人がケンちゃんの交尾権を得る戦いに参加してたらどうしますか?」
『そんな奴がいたら、むちゃくちゃ腹が立つから問い詰めに行くな。”なにわしに黙って抜け駆けしてるんじゃ!”って』
『そうですよね。しかもその行動は種族全体がケンちゃんとの交尾権を失う可能性があるというリスク付き……そんなのがばれたら村八分どころの問題では済みませんよ。ボコボコのボコです」
『つまりあれか?わしたちが直接手を下すのはなく、魔界に住む住民どもに刑の執行を任せるたい……と』
「そんな感じらしいです!」
『はぁ……相変わらず魔王様の策は回りくどくてまどろっこしいのう」
「政治なんて裏で動いたもん勝ちですから。多種族がひしめく魔界じゃなおさらです」
『そんなもんかのう……てか、そろそろこの痺れをどうにかしてくれんか?』
「無理です!ルナ様を治したら、次は私が狙われますから!」
ガブ!
「(もう……まるちゃんさん!重いのでのしかからないでくださいよ~)」
「がう!(もう前戯は十分だ。交尾!交尾するぞ!早くこの布切れを脱がぬか!)」
「(あ、ちょ……待って。ズボンはダメ!噛まないで!ここ野外だから!みんな見てるから!)」
『はぁ……優勝者との交尾が終わっても、純粋無垢なケンちゃんの姿が見られるんじゃろうか……』
===================
日没まで残り58分 残り人数:311/1050




