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第73話 戦わなければ生き残れない!!!

「(眠い……)」


 お城に到着してから数分が過ぎた。


 こんな所でぼーっとするくらいなら、早くまるちゃんさんたちと触れ合って癒されたい。

 だというのに、肝心のルナさんたちは何故か城に入る様子を見せない。


 先ほどそんな様子に痺れを切らした僕は、城の扉に手を伸ばした。

 すると、突如アウラさんの糸が飛んできて、あっという間に全身を拘束されてしまった。


「ケンちゃん!今から城を取り返しますよ~!だからもう少し大人しくしようねぇ~」


 そして今は、金色の毛に覆われた、撫でるのが得意な狐っぽい女性――たしかモフネさんという名前だったかな。

 そのモフネさんに、余計なことをしないよう優しく抱きかかえられている。


『よし……装備はこんなもんじゃろ。それじゃあわしたちは、あの城にいるアホ共を一人残らずぶちのめしてくる。ケンちゃんのことはおぬしに任せたぞ』


「了解です!ケンちゃんに少しでも危険が近づかないよう、この尻尾にかけて私がしっかりとお守りいたします!」


『むぅ……任命したんじゃが、本当に大丈夫なんじゃろうか。言っておくが、ケンちゃんに少しでも変なことをしたら、この場で即死刑じゃからな?魔王様が控えておるから執行もあっという間じゃぞ?』


「わ、わかってますよ!私だってそれなりに長くこの仕事をやってるんです!その程度の分別はありますって!」


『そうは言ってものう……副メイド長という勤続2番目のベテランですら裏切ってるらしいからなぁ』


「それは仕方ないですよ。だってあの連中………【城の情報を渡せばケンちゃんと特別な関係になれる権利をやる】って、ケンちゃんの剥ぎコラを持って誘惑してきたんですから」


『なんじゃその“剥ぎコラ”って……』


「えっ、知らないんですか? 簡単に言うと、ケンちゃんの裸っぽく見える写真ですよ」


「なっ……!聞くだけでエロいが、そもそもそんなもんを公式に作った覚えもなければ発売したこともないじゃろ。絶対に偽物じゃ」


「たとえそれが偽物でも!明らかに顔だけを雑に切り抜いたものだったとしても!長い間ケンちゃんロスに苦しみ、夜も眠れずにいた私たちにとってそれはまさに悪魔の囁き!そんなの断れるわけがありません………可哀そうな副メイド長」


「だからといって裏切るでないわ!まったく……この一連の事件が終わったら大量解雇じゃな」


 さっきからルナさんが口論していたり、”マオウ”という人がストレッチを始めたりして、なんとなく緊張した空気が漂っている。


 最初は城がにぎやかだったので、楽しいパーティーでもしているのかと楽観的に考えていた。でも、「戦え……」といった物騒な声が周りから聞こえてきて、少し不安になってくる。


「ルナ?」


『おお、どうしたんじゃ~ケンちゃん♡ ひょっとしてわしと離れるのが寂しくて震えておるのか?安心せい。すぐに全員ぶちのめして、ケンちゃんをたっぷり味合わせててもらうつもりじゃからな♡』


「ルナ……僕も行きたい!」


『ダメダメダメダメじゃ!!!!そんなことしたらケンちゃんは食い尽くされてしまうぞ!?1000対1の乱交パーティーが始まる地獄絵図じゃ!?』


 相変わらずルナさんの話している内容はちんぷんかんぷんだが、肩をぐわんぐわん揺らされる勢いと表情からして必死なのは伝わってくる。

 少なくとも、戦えない僕が行けるような状況ではないらしい。


「はぁ……何かできることないかな」


 考えないようにしてきたけど、こういう状況になると嫌でも自分が役に立たない存在なんだって思い知らされる。

 僕は異種族溢れるこの世界で、何か役に立てることがあるんだろうか。現状では、動物園で笑顔を振りまくだけで何の役にも立っていないよな……


「よし……あまり遅れては卑怯者だと非難されかねん。そろそろ突入するぞ!」


 自分の無力さに落ち込んでいると、マオウと呼ばれるどこか威圧感のある人物が皆を引き連れ、城に向っていった。


「この扉をくぐれば全員が敵同士だ。相手が幹部であろうと関係ない。一切の容赦は無用と心得よ」


『ふ!それはこっちのセリフじゃわい!何十年前に山を吹き飛ばしたかは知らんが、わしは生まれてから今日まで殴り合いで負けたことがないんじゃ!』


「わ、わたしにだってとっておきの魔法があります。全員まとめて一網打尽……です!」


「よかろう。皆心意気は十分のようだな。では行くぞ!!!」


 そう言い放つと、皆は重々しい扉を開けて中へと進んでいく。


「皆さんいってらっしゃ~い!ケンちゃんもほら!手を振って応援してあげてください!」


「バイバイ……?ミンナ、がんばって……?」


 モフネさんが優しく僕の手を取り、導かれるままにぎこちなく手を振って見送る。


「ケンちゃん応援ありがとうございます!嬉しい……です」


『は?今のはどう考えてもわしに向けて言ったじゃろ!出会ってまだ2週間しか経っとらんのに調子に乗るでないわ!』


「おやおや、ルナ君には申し訳ないが、今の言葉は明らかに私に向けたものだよ?手を振る直前、ケンちゃんと私は確かに目を合わせていたからねぇ」


「あの将来の伴侶という妄想はやめた方がいいと思い……ます。聞いてて惨めなので」


「は?」


 ガチャンッ!


 直前まで何か口論していたようだが、ルナを含む50名の一団も中へと進んでいった。


 今から城内で何が起こるかわからないが、完全に部外者の僕は無事を祈るしかない。南無。


「じゃあケンちゃんはあっちで遊びましょうね~!みんなケンちゃんのこと吸いたくて、もうびちゃびちゃなんですから~。も、もちろんちょっとだけ……ほんのちょっとだけペロペロしますが、ルナ様には黙っててくださいね~」


「ペロペロ?ナニソレ?イミ……オシエロ……クダサイ」


「おほ♡無知シチュ最高♡ペロペロというのはですね~、ケンちゃんのお耳やお手々をぺろっと舐めることなんですよ〜〜〜♡」


「ナメルノ?」


「そうです。あ、でも勘違いしないでください。あくまでもこれは、獣人族に古くから伝わる伝統的なスキンシップですから。やましい気持ちなんて一切ありませんよ~♡純粋な気持ちでケンちゃんを舐めるだけですからね♡」


「……スキンシップ?よくワカラナイ……やってみて」


「え!?いいんですか!?じゃあ早速……いただきま~す♡♡♡」


 モフネさんが僕の肩を掴み、そのまま首元へ顔を近づけてきた――そのとき


 ガチャンッ!


 閉じたばかりの扉がものすごい勢いで叩き開かれ、目の前にボロボロになったフィーリアさんが転がり込んできた。


「こひゅう……こひゅう……ごほっ……っ。魔法の詠唱中に、そんな……お腹を思いっきり殴るなんて……そんなの卑怯……です」


 ガクッ……


「………………とりあえず回復しておきますね?」


 日没まで残り2時間48分 残り人数:952/1050

 

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