第64話 あなたのことを忘れない 中編
『ちょっと!フィーリアさん!いや、フィーリア!何したかわかってるんですか!』
「いや、だって………」
『“だって”で済む話じゃないです!』
リーリスの怒気を帯びた声が響き、私は思わず肩を縮めた。まるで叱られる子どものように、小さくなって視線を落とす。
『あなたが森を燃やしたせいで、指名手配されたんですよ!まだ弁明の余地があったのになんで呼び出しから逃げ出したんですか!』
「だって怖かったんですもん。特にあの村長さんすごく厳しいって聞きました……私怒られるのすごく苦手なんです」
『そんなの知りませんよ!とにかく私は村に戻りますからね!』
「ま、ままま待ってください!リーリスさんだけ戻ったら、私が悪いみたいになるじゃないですか!そんなのあんまりです!」
ガシッ!
私は慌てて、村へ向かおうとするリーリスの腕を掴む。
あんな厳しい村長に怒られるなんて考えるだけでゾッとします。
「そ、それに!罰金を払えるほどのお金なんて持ってないです!このまま戻れば、二人して牢屋に入れられちゃいますよ!せっかく森を抜けだしたのにこんなところで足止めされるなんていやです!」
『それは……わたしも同じですよ。今だってお母さんの本を何冊か売って、なんとか食いつないでるだけですし』
リーリスさんは眉をひそめて渋い表情を見せる。
『一応、家宝にしてる【お隣のオスガキは文系お姉ちゃんが好き♡3泊4日のドキドキお泊まり会♡】を売れば、お金は工面できるかもしれません』
「なら……」
『でもそれだけは絶対に無理です。あれはお母さんの形見でもあるし、私の精神的な支えですから』
そう言って、彼女はこちらを鋭く睨みつけた。
「じゃあ、リーリスさんも一緒に逃げましょう。別に人を殺したわけじゃないんですし……私たちがしたのは、たかが森を燃やした程度です!」
『今、エルフ族が一番言っちゃいけないことをさらっと言いましたね……エルフ族って、森や動物を神聖視するほどに自然を愛するって聞くのに』
たしかにエルフ族は自然を愛しています。ですがそれはそれ!これはこれです!
「一生のお願いです!私と一緒に逃げましょう!エルフ族の一生のお願いってすっごく貴重なんですよ!私が有名なった時は他の人間族に自慢できますから!!!」
ユサユサユサユサ!
『ああもう、わかりました揺らさないで下さい!私もオスと交尾したいですし、ついて行けばいいんでしょ!』
「あ、はいっ……これも何かのご縁ってことで……よろしくお願いしますね。えへへ、初めての仲間ゲットです」
『はぁ……私の人生どうなっちゃうんだろう』
それからというもの、私たちは立ち寄る先々で魔物の討伐や薬草集めをこなしながら、オスとの交尾を目指して自由気ままな旅を続けていった。
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「リーリス!本日の晩御飯をかけて、いざ尋常に勝負です!」
『今日だけは絶対にお肉が食べたい……もうエルフ族特製の薬草スープなんて飲みたくない……!絶対に負けないから!』
『「ジャン、ケン――ポン!」』
『うぎゃーーーー!また薬草スープだぁぁぁ!!!』
「ふっふっふ……これで10連勝!見ましたか?これが才能というものです!」
『じゃんけんに才能もクソもないでしょ!魔法で不正したんじゃないの!……ちょっと!昨日も言ったけどその紫のキノコを入れないでよ!』
「大丈夫です……確かにこれは致死性の高い毒キノコですけど、その分とっても美味しいんですよ!それに、あとでちゃんと解毒の魔法をかけますから!」
『そういう問題じゃない!』
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『ねえ、さっき本で見たんだけど……オスって、私たちメスを見ると本能的に怖がるらしいよ?』
「えっ、そ、そんな……じゃあ私たち、どうすればいいんですか!?やっと出会ったオスに声をかけた瞬間拒絶されるなんて、そんなの耐えられません!」
『えーっと、ちょっと待ってね……【日刊:オスの気持ち】によると、口調を変えるのが効果的なんだって。“です”とか“ます”を語尾につけるだけでオスが安心するらしいよ』
「なるほど。こうかな……です」
『ふっ……いいんじゃない?』
「今絶対に笑いましたよね……です!わたし真剣なんですけど……です。これで合ってるんですよね……です!」
『ふふっ……くくっ……あははははっ!』
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「リーリス!さっきから本ばっかり読んでて、退屈……です。かまってください!」
『無理。今、オスの主人公が“交尾で犯人を見つける”っていう感動のクライマックスだから静かにしてて。ここ、このシリーズで一番の見どころなんだから』
「10年も共に旅をしてきた私と、その本とどっちが大事なんですか!」
『本!』
「えっ!?」
『お、挿絵があるとわかってるじゃない。この前の推理……交尾中の噛み跡と犯人の噛み跡が一致したときは本当に感動したなぁ。女怪盗ルパンパン3世とのコラボもやってほしいけど、コラボするたびに子供が増えるのが難点なのよね』
「うぅ……そうだ!一緒にボードゲームやりませんか?このゲーム、先にオスの駒を取った方が勝ちっていうルールで結構面白いですよ!」
『ああもう、うるさい!そんなに暇ならあんたも本でも読めばいいじゃない!これの前編なら、そこに置いてあるから!』
「えぇ……本はオスの存在を教えてくれた大変ありがたい物ですが、交尾本以外はあまり好きではありません。文字を追っているとすぐ眠くなるので」
『じゃあ空でも見てじっとしてれば?……はぁぁぁ!?なんで交尾シーンが50ページしかないの!ここは犯人探しに重要な部分でしょ!乱交姉さんも参加して、もっと交尾シーンを引き延ばしてよ!』
「はぁ……無視されました。仕方ありません。眠るための子守唄代わりに、本を読んであげます」
ペラ……ペラ……
ペラ…ペラ…ペラペラ…
ペラペラペラペラ……パタン!
「リーリス!リーリス!他の本はありませんか!?もう全部読み終わりました!」
「え、おはよう……ってもう読んだの?まさか徹夜!?」
「えへへ……はい、お恥ずかしながら……気づいたら夜が明けてました……」
「まったく……ん?あああああ!それ!それ一番新しい奴なんだけど!?なんで勝手に読んでるのよ!楽しみに取っておいたのにぃ!」
「とても面白かったので、つい……まさか犯人がいつもそばにいるあの乱――――」
「ちょっと!私まだ読んでないんだからネタバレしないでよ!」
「す、すみません……でも、本の続きが気になってしまって……もっと読みたいです」
「無理よ」
「な、なんでですか!リーリスのいじわる……です!」
「それが一番新しい巻なんだから仕方ないでしょ!そんなに読みたいならいっそ自分で書いたらどう?ふんっ!」
「自分で書く……その発想はありませんでした。まずは絵本から始めてみます!画用紙に魔法ペンで下書きを書いて……」
カキカキ……カキカキ……
「ふーん……線の引き方も構図も、なかなかセンスあるじゃん。どんな仕上がりになるのか楽しみにしてるから……がっかりさせないでよ?」
「ふふふっ……涙あり笑いあり、心を揺さぶる感動の超大作をお届けします!……あっ、ちなみにその本の犯人は人間族のヤス……です」
「フィーリア!!!!!」
そんな日常を繰り返しながら、私たちはあちこちを巡って旅を続けた。
このままずっと、リーリスと一緒にオスを探していられる――そう疑いもなく信じていました。
あと1話で過去編が終わるのでお許しを




