第6話 脱ぎ脱ぎしましょうねぇ~
ドンドン!ドンドン!ドンドン!
先ほどの大事件で服が汚れてしまい、わしたちはオスと一緒にお風呂に入ることになった。
なったのじゃが……
「ルナ様!私も!私も一緒にお風呂に入らせてください!減給でもなんでもいいのでオスの裸体を見せてください!」
「隠れてエッチなことするつもりなんでしょう!この人間界の交尾本みたいに!」
「もがもが……(そろそろタオルからオスの芳醇な香りが抜けそうなので追加で衣服を食べさせて下さい!)」
ドンドン!ドンドン!ドンドン!
どこからかオスの情報が漏れたのだろうか。扉の向こうでは大勢が押し寄せ、脱衣所の扉を叩く音が響いている。
しかも集まっているのは城の使用人だけではなく、仕事で来ていた関係のない事務員までもが混ざっていた。
まずいな。こいつらをどうにかしないとこのまま浴槽で大乱交会が始まってしまう!この者たちの意識をどこかに向かわせなくては……そうだ!
『あ、あー……そういえば、さっき毒殺を疑ったお詫びに料理長へオスが使ったスプーンや食器を渡したんじゃったな。今ごろどうしておるんじゃろうなぁ……まさか舐め回したりしてはおらんじゃろうな? もしそうなら、まだ厨房にいるかもしれんの~』
ビクッ!
わしがわざとらしくそう呟くと、さっきまでの騒がしさが嘘のように消え、辺りはしんと静まり返る。
「なんですって!そんな逸品があれば死ぬまでオカズに困らないじゃない!」
「つまり、間接キス……ってこと!わわ、それって交尾してるのと同じゃん!最高!」
「月が出てないとはいえ、この人数でルナ様とラミィ様を相手にするのは分が悪い……よし!標的を料理長に変更!みんな!行くぞ!」
「「「「おう!」」」」「もが!」
バタバタ……
『ふぅ……なんとか行ったようじゃな。今のうちに』
ガチャン!
扉の前に人の気配がないことを確認すると、脱衣所へ続く扉をしっかりと施錠する。
「これで余所者は入ってこれまい。安心じゃな……ん?」
ほっと息をついた矢先、厨房の方角から”ドカン!”と何かが弾ける音が聞こえてくる。
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<さぁ!腕ごとそのスプーンを寄こしな!【ウィンドサークル!】
ガキン!
<クソ!料理長だけじゃない!シェフ全員が徒党を組んでやがる!まずい!反撃が来る!伏せろ!
ドカーン!
<ぐっ……流石は魔界でも指折りの調理人。火炎魔法の火力が段違いだ……だがこれほど強力な魔法の連発は出来ないはず!
ペロペロペロペロペロペロペロ!
<な!あいつら!失った魔力をオスのスプーンを舐めることで回復してやがる!ぐぬぬぬ、満足そうな顔しやがって!
ドッカーン!
<けほっけほっ……お姉ちゃん!こんなところで死んではダメだ!一緒にオスとXXXな交尾をするってあの夜に誓ったじゃない!お姉ちゃーーーーーん!!!
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だんだんと戦場さながらの喧騒がこの部屋まで届いてきた……
「いや……きっとわしの気のせいじゃろ。うむ、そうに違いない!」
だがわしは、自分に言い聞かせるように首を横に振る。
そんなくだらないことよりも、今はオスとの”ドキドキお風呂タイム”のが重要じゃ!
『さぁ~て♡汚れた衣服を脱ぎましょうねぇ~♡自分で脱げるかな~?うんうん、上手に出来てえらいの~…………交尾!ああ、違ったこれからお風呂に入ってキレイキレイするだけじゃぞ~』
ドキドキドキドキ……♡
魔界の住民に聞いた「死ぬまでに見たい光景ベスト10」に堂々ランクインしている伝説の瞬間――オスの脱衣シーンを凝視する。
『はぁ…♡はぁ…♡オスと一緒に服を脱いでる♡そこから導き出される答えはただ一つ……交尾!』
必死に冷静さを保とうとしたが、改めて認識するオスの姿はあまりにも魅惑的で……理性など紙切れのように舞い散った。
なんだそのぷにぷにの細い体は!戦うための筋肉など一片もないではないか!
こんなのが目の前をフラフラ歩いていたら、【どうか僕を抱きしめて♡抵抗する気はゼロだから何してもOK♡】って全身で叫んでるようなものじゃ!
「(はぁ……最近運動してないから腕とかお腹が細くなったなぁ。最後に公園へ行けたのはいつだっけ?また思いっきり走りたい……けほっ、けほっ!)」
いやこれはもう確信した!この子は女性を誘惑するためだけに存在している!
しかもなんじゃ!この妖艶な見た目で首に噛み跡が一つもない『白首』じゃと!?(白首=獣人族版の処女や童貞のこと)
まったくもって卑猥すぎる……こんな生き物がこの世に存在していいのか!あまりわしを挑発するなら、このままぺろりと食べちゃうぞ!
『ぐへへへへ……交尾!こうび!!コウビィィィ!!!』
「ルナ様落ち着いてください。また警戒されてしまいます」
『無理じゃ!こんなエロ過ぎる姿を見せられて落ち着けるわけなかろう!』
「その気持ちはわかりますが一度慎重に。あと先ほどから10秒に一回は“交尾”と叫んでいますが……この後本当にするおつもりですか?」
衣服を脱ぎ、わしと同じく薄着姿になったラミィがぶっちゃけた質問を投げかけてくる。
『したい……!なんならこの場で意識が飛ぶまでむちゃくちゃにしたい!』
「私もです!」
『......だが、わしの初めては朝までイチャラブ交尾と決めておるし、なにより異種族間の交尾はオスにとって大きな負担がかかる』
異種族間の交尾は基本的に弱いオスが蹂躙されることが多く、交尾の方法はメス種族の方式に従うことがほとんどだ。
わしとしては、全身という全身を舐め回し、首や腕に噛み付いてマーキングするのは幸せで気持ちいい行為だと思うのだが、人間族にはあまり好まれないらしい。
マーキングされるのが嫌なんておおよそデマ情報だろうが、この子で冒険するにはまだ親愛度が足りておらぬ。
『それにこの子はついさっき魔物に襲われていたばかりじゃ。無理矢理ことを進めてもしこの子に嫌われでもしたら……考えただけで絶望じゃ!わしは舌を嚙み切って死ぬぞ!』
「……ですが我慢できますでしょうか?正直、一緒に風呂場にいるという事実だけで理性が崩壊しそうです。今はなんとか、頭の中で妄想をすることで耐えてはいますが、もうそろそろ現実との区別がつかなくなると思います...(チロチロ)」
ラミィは興奮を抑えきれないのか、蛇族が興奮しているとき特有のサインとして、細い舌をチロチロと鳴らしている。
『わしだってそうじゃ!だが他の者に頼むわけにはいかんしのう……』
残念ながら、この屋敷にいる人物のだれにまかせても交尾される未来しか見えない。
『はぁ……せめて体を隠せるようにタオルを巻いてもらうかのう。体を見るだけで頭がクラクラしてしまう。まぁ、それでも理性が保てるかどうかは分からんがな』
どうにか理性を崩さずに、この子をお風呂に入れる方法はないか?
「(異世界なのにドライヤーとか鏡があるんだ。コーヒー牛乳もあったりするのかな? 5年前に父さんと飲んだのが最後だったしまた飲みたいなぁ……二人とも元気にしてるかなぁ……)」
いっそのこと一人で入ってもらう……いや、この子は野生で育った"はぐれ"だ。
脱衣所の機械を不思議そうに眺めたり、落ち着かない様子できょろきょろしたりしているのを見るに、とても放ってはおけぬ。
まず浴槽の使い方なんて分からないじゃろうな。
「ならルナ様。ここは一旦人間族のオスということを忘れてペットを洗う感覚でいきませんか?いずれにせよ、これからペットのように扱うつもりなのです。ここは練習だと思って……」
『ペット、ペット………なるほど。いい作戦かもしれぬな」
この愛らしい生き物をペットだと考えると、だんだんと性欲よりも守りたい気持ち――庇護欲が強く湧いてきた。
「幸いなことに、この子は人間族のオスですが、身長はわずか1.5m程度でまだまだ成長途中の子どもです。身長が倍以上ある私たちなら性欲ではなく母性や庇護欲で対応できるのではないでしょうか?」
『確かにその通りじゃな……よし、なんだかいける気がしてきたのう! ならここは数多の魔物を飼っているペットマスターであるわしが、魔物の洗い方について丁寧にレクチャーしてやるかのう!』
「お願いします」
『じゃあ早速洗い場に行きましょうねぇ~怖くないよ~むしろ気持ちいいから安心するんじゃぞ~』
ガシ!
「(あ、自分で歩けますから離してください!うわ、胸近!)」
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<異世界用語解説>
白首:獣人族版の処女や童貞のこと
意味:主に獣人族の間で使われている言葉。獣人族との交尾では、首に跡が残るほど強く噛み痕を残すことから【傷跡がない=白くてきれいな首はまだ交尾してない】という発想で生まれた言葉。
しかし、近年は治癒魔法の発達により、交尾後すぐであれば噛み痕を完全に消せるようになったため、この考え方は必ずしも当てはまらず、賛否が分かれている。
例文:今日拉致されてきたオス白首らしいよ・お前の白首もらうぞ!ガリ!ふふこれでお前も白首卒業だな。
2042年版 異世界異文録より抜粋




