第51話 魔力測定――ついに来るか転生特典!
「ボク……ルナ……ト……ケ……ケッ」
『ルナと結婚する!』
「ルナト決闘シマス!」
『ちがーう!惜しいけど全然ちがーう!』
宿の一室で、ケンちゃんに文字を見せながらある言葉を教えている。
しかし、何度繰り返しても発音がうまくいかず、そのたびに全然違う意味になってしまうのだった。
「やはり言葉を教えるというのは難しいのう……」
仕方ないとはいえ、テレパシーが使えぬとなるとやはり効率が悪い。
たった一言を伝えるだけでも時間がかかるのに、すべての言葉を覚えるとなるとかなりの時間がかかりそうじゃ……。
「昔のわしは、よくまあ言葉を覚えられたもんじゃのう」
苦戦しているケンちゃんの様子を見ると、今更ながら不思議でならない。今度、お母様に覚えるコツを教わってみるかのう。
ガチャ!
「ただいま戻りました……って、ルナ様。まだその言葉を言わせようとしてるんですね」
着替えを終えて部屋に戻ってきたラミィが、少し呆れたような表情で問いかけてくる。
『ラミィはまるで分かっておらんのう……これは、ケンちゃんと将来を共にするために必要な工程なのじゃ!』
「どういう意味ですか?」
『ふっふっふ!そんなに聞きたいのか……いいじゃろう。わしは昨日の撮影を見てふと思いついたのじゃ!言葉を覚える前に言質をとっておけば、将来こちらが優位に立てるのではないかとな!』
今のうちにケンちゃんが『ルナと結婚する』と言った映像を残しておけば、それだけで婚姻は確実!
映像の中のケンちゃんが言葉の意味を分かっていたかどうかなんぞ、後から調べる術はないからのう。
にゃふふ……我ながら完璧な作戦じゃな!
「はぁ……本当にこういう時だけは頭が働くんですから。普段からその調子で働いてくれたら書類仕事も早く終わって、私の肩こりも少しはマシになるんですけどね?」
『うるさいのう。そんな文句ばっかり言うのなら、ラミィバージョンはお蔵入りにするぞ?』
「ルナ様さいこーです!!!」
『まったく……さあケンちゃん、もう一度いくぞ?【ルナと結婚する!】【一番最初に交尾する】ってな』
「ルナ……ト…………検討シマス」
『がああああ!惜しい!』
あと一歩!あと一歩なんじゃがなぁ……。
「うぅ……ルナ……ゴメン……シマス。ボク……ダメ……デス」
シュン……
そう弱々しく呟くと、ケンちゃんは肩を落とし、うつむいたまま視線を上げようとしない。
『あわわわ!違うんじゃよケンちゃん!私が無理を言ったのが悪いんじゃ!そうじゃよな!いきなりそんな難しい言葉、テレパシーなしで言えるわけないもんな!だから、そんな顔せんといておくれ~』
ケンちゃんを強く抱きしめ、必死に慰めの言葉をかけ続ける。
だけど――ケンちゃんは黙ったまま、膝の上ですやすやと眠るゴンの尻尾を、小さな手でぎゅっと握りしめるだけだった。
コンコン……ガチャ
「あ、あの……失礼します……」
控えめなノックの音がしたかと思うと、こちらの返事も待たずに扉が開き、フィーリアがそっと顔だけをのぞかせた。
『なんじゃ!こっちは絶賛お取込み中じゃ!』
「ひぃぃっ、ご、ごめんなさい!そ、そそ村長がケンちゃんにお願いしたいことがあるそうなんです!い、今からついてきていただけますかっ?」
『あとで行ってやるからお主のテレパシーを貸せ!』
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「お待ちしてました!ルナ様!ラミィ様!ようこそ魔法訓練所へ!」
指定された部屋の扉を開けると、そこには銀色のポニーテールを揺らしながら、笑顔で出迎えるエルフの少女が立っていた。
他のエルフたちは皆どこか影のある暗い表情をしていたが、彼女だけは場違いなほど明るく快活な様子をしている。
「ここ魔法訓練所では、ケンちゃんの魔法の素質を詳しく測定できます。今日は特別に貸し切っておりますのでどうぞご安心ください!普段はとても混み合っているんですよ~!」
『そうなのか……っむ?魔法訓練所?』
「どうかしたんですか?こう見えてもこの魔法研究所は便利なんです!」
『いや、エルフって戦争に参加してないじゃろ?にもかかわらず訓練所が混み合うほど利用されてるとは、ちとおかしな話じゃなと思ってな』
「あっ……」
『あ?』
「……そ、そう!これは、昨日見ていただいた演舞用の魔法訓練所ですよ!ええ、そうですとも!ご存知の通り我々エルフは戦闘が苦手ですからね~。他種族と戦争なんてとんでもない!はは、ははは……」
わしの疑問に、ポニーテールのエルフはにへらと笑って誤魔化す。
戦いが苦手ならなおさら鍛えるべきと思うのだが……なぜそんなにも自慢げに話せるのじゃ?
『いや……まぁ良い。で、ケンちゃんの魔力の適性とを調べたいという申出だが、どうやって調べるつもりなんじゃ?』
「はい!最初に、私がケンちゃんの手に触れて体内を流れる魔力を直接感じ取ります。その後、専用の測定器を使って魔力の保有量や性質などを詳しく調べるんです!」
ドサッ!
エルフは複雑な配線やレバーが目立つ、重厚感のある機械を取り出した。
「エルフも機械とか使うんですね……」
『確かに』
エルフは自然との調和を重んじる為、こういった人工的なものを忌避する種族――そんな印象があっただけにこの光景は少し意外だった。
「だって便利なんですもん。機械がなくても一応は測れますが、時間がかかりますから。まあ、村の老人たちにはちょっと嫌な顔をされますけどね〜」
『老人たち……って、お主は何歳なんじゃ?』
見た目だけなら、昨日見た多くのエルフと同じ年齢に見えるんじゃが……
「こう見えても、ぴっちぴちの100歳ですよ!この村じゃダントツの若輩者なんですから!」
『な、なるほど。100歳で最年少とはなかなかすごい村じゃのう……ちなみに100歳ちょうどか?』
「えっとですね……正確には147……いや、151歳くらいだったかな?」
『端数でわしの一生を軽々と超えておるんじゃが……』
50歳のサバ読み……やはり長命種の感覚というものは永久に理解できそうにないのう。
「さて無駄話はこの辺にしてそろそろ始めましょうか。午後には言葉の勉強もありますしね」
『よろしく頼む』
そういえばフィーリアのやつ、この場所だけ告げてどこかへ行ってしまったが、午後にはちゃんと戻ってくるのかのう。
サボりそうで正直不安じゃ。
「では、始めますね!【テレパシー】」
コク……
「リカイ……オネガイ……イツデモシテヨ」
テレパシーによって、わしらと同じ説明を受けたのか、ケンちゃんは快く了承した。
昨日覚えたばかりの言葉をちゃんと活用しているとは……やはりケンちゃんは天才じゃな!
「ケンちゃんは物分かりが良くて偉いですね!これなら、わざわざ毛布で視界を塞ぐ必要はなさそうです」
手にしていた毛布を床にそっと置く。
「ではさっそく、その小さなおててを触らせていただきますね!」
にぎにぎ……にぎにぎ……
「ほうほう、なるほど……これはこれは」
神妙な顔で、ケンちゃんの手のひらをペタペタと触診する。
「これはすごいです!」
『な、なにかわかったのか?』
「いえ!今はただ、”オスの手ってこういう感触なんだ〜”って浸ってただけです!昨日は顔をじっくり観察する日でしたから!」
なんだこいつ。
「ちなみに、皆さんは魔力についてどれくらい知っていますか?」
にぎにぎ……にぎにぎ……
「はい、魔法学の基礎知識としてある程度把握しています。【魔力とは、生きるための力そのものであり、多かれ少なかれ命のある者ならば誰でも平等に持っている力】……と習いました」
「その通りです。魔力を使いすぎて体調を崩すのは、その生きる力が減ってしまうからだとされています」
『ふーん......……魔法を使わないわしにはあまり関係のない話じゃのう』
「ルナ様も魔力自体は多く保有してますが、他の素養が低いんですからね。仕方ないですよ」
『別に無理に励まそうとせんでもいい。獣人族は魔法が苦手な種族だから、そんなことで気にしてなどおらん。勝手に哀れむでないわ!』
魔法が使えなくてもドライヤーのような魔法具を使えば十分じゃ。だから困ることなんてないわい!
にぎにぎ……にぎにぎ……
「そろそろ触って結構経つが、なにかわかりそうか?」
「いえ!今はまだ骨の感触を楽しんでるだけです!話しながら魔力の流れなんてわかるわけないじゃないですか~」
『………』
ポニーテールのエルフは、こちらを嘲笑うように笑いながらケンちゃんの指を触り続ける。
『もし、次も同じやり取りをする羽目になったら、その長ったらしい耳を引きちぎるから覚悟しておれ』
「は、はい!では頭に測定用の機械のせますね!」
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ガガ……ピー!!!
ケンちゃんの頭に装着された機械が不気味な音を響かせ、一枚の紙を吐き出した。
「はい!診察は終わりです!ケンちゃんお疲れ様でした!」
「ふにゃ」
きっとあれには、ケンちゃんの情報が隅々まで書かれているのだろう。すごい価値がありそうじゃな。
「さて!ケンちゃんの魔法の素質は…どうかな。基準を満たしてたらいいんだけど………えっ、キモ!」




