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第48話 おとぎ話:【王族で不老不死の夫がいる勝ち組だけど質問ある?】


『ふぅ…………食べた食べた』


「おかわりしてましたもんね」


「うむ。エルフ料理というから、薬草を煮込んだスープとかキノコばかりの質素な食事を想像してたんじゃが、案外普通じゃったな』


 満腹になったお腹をさすりながら、案内された宿で一息つく。

 あったかいお茶がじんわり身にしみるのう……少しばかり苦みが強いがな。


「エルフそのものはあまり表には出ませんが、各地との交易はきちんと行っていますからね」


『ああ……確かエルフ族の特産品は高純度のポーションじゃったか?時折店で高値で売られているのをみるぞ?』


「基本的にはそうですね。回復魔法が発展したとはいえ、習得できる人間は多くありませんし、魔力もかなり使います。少なくとも戦争している間は安泰でしょう」


「まったく……魔王軍は財政難だというのに、エルフたちはいい商売をしとるのう。なんとも羨ましい限りじゃ」


 この前なんぞ、部屋の明かりを付けっぱにしただけで魔王様に小言を食らったからのう……どんだけ金ないんじゃ。


「(ゴンさ~ん、食後に寝たら太りますよ~)」


 もにゅっ!


「コン!」


「(わわ!やりましたね~)」


 談笑しているわしらの前では、ケンちゃんとゴンがふかふかの布団の上ではしゃいでいる。

 動くたびに、浴衣の隙間からチラリと覗く白い肌が妙に艶っぽくて目に毒じゃ。


「(わしゃわしゃこうげき~)」


「コンコン!」


 おほっ……♡


 あんなにも無防備に動き回られては、ダメだとわかっていても理性がぶっ飛んでしまう。見るだけで鼻息が荒くなり興奮マックスじゃ。


「うーむ……だからこそ、あの食事を運んできた者どもの振る舞いが、どうにも納得いかんのう」


 二人がはしゃぐ姿を微笑ましく見守りながらも、先ほど食事の場面に感じた違和感に思いを出す。


 晩御飯の配膳が始まると、ケンちゃんの周りには複数のエルフたちが集まり食事を手渡し始めた。


 当然、重い皿や湯気の立つ鍋をオスに持たせるような危険な真似はもちろん許されんからそこまではよい。理解できる。ぶん殴りたい気持ちにはなるが理解できる。


 問題なのはここから。

 そのエルフ達に向かって可愛らしくも人懐っこいケンちゃんが“ふにゃふにゃ”と話しかけてしまったことじゃ。

 当然、常人がオスのそんな場面に居合わせたら、脳の回路がショートし、体中から汁が溢れ痙攣してもおかしくないほどの衝撃じゃろう。


 わしでさえ、初めて会った頃はトイレとケンちゃんの間をシャトルランのように何度も往復しておった。

 だから、エルフ共がどんな暴走をするのか身構えていた……だというのに。


 エルフたちは返事もせず、会釈すらせずに、まるで何もなかったかのように素早く裏へ引き上げてしまった。

 あの態度が何とも気味が悪くて仕方がない。


『まるでケンちゃんを見てはいけぬと言わんばかりの態度。それがどうにも胸の奥に引っかかるのう……』


「考え過ぎではないでしょうか?私としては、落ち着いた良い対応に見えましたが……」


『いやいや、そこがどうにも解せんのじゃ!だってケンちゃんじゃぞ!?唾液一つで家が建つあのケンちゃんが目の前にいるのだぞ?』


「それ、どこの情報ですか?」


『廊下で部下たちが話しておった。どうやら闇市でケンちゃん関連のグッズがよく売れているらしいのじゃ』


「えぇ……」


 ラミィは半ば諦めたような困惑の色を浮かべる。


 いや、わしはそんな怪しいところに流すつもりはないぞ?買いに行くのも値段を聞いてギリギリ踏みとどまったからな!


『とにかく!まともな思考回路をしている人間なら”交尾!”って叫んで服を剥ぐのが普通じゃろ!?あんな反応はありえん!?』


「強く否定したいところですが……ケンちゃん園での様子を思い返すとなんとも言えませんね。半信半疑でしたが、長命種のエルフは性欲が薄い傾向があるというのは本当だったということでしょうか?」


『うーん………でも、同じ長命種の魔王さまはむっつりスケベの変態じゃろ?ダークエルフのダレスだってそうじゃ。エルフだけ特別ってのがな~んか引っかかるのう』


 これは理屈じゃなくて、完全にわしのカンじゃが、どうも嫌な胸騒ぎがする。

 ただ、今更ただのカンで帰るわけにはいかんしのう……


『……まぁエルフ程度なら最悪全員なぎ倒せば良いじゃろ』


 それに、ケンちゃんがエルフの森にいることは魔王様も把握しているし、奴らはこの森を出ることはない。


 もちろん問題は起きてほしくないが、もし何かあっても【魔界の住人全員対エルフ族】という当初計画した通りの対立構造になるのだから、最悪の事態にはならないだろう。

 

『ならあまり深く考えず、今はケンちゃんを楽しませることに集中するかのう』


 たとえ後手に回っても、なぎ倒すだけの戦力は十分にある。変に警戒してケンちゃんに不安を抱かせるわけにはいかぬからな。


『そういえば、エルフの森って何があるんじゃ?それらしい観光施設は見かけなかったが……』


「さあ……少なくとも観光目的の娯楽はないんじゃないでしょうか?神聖な大樹があるせいで、人の出入りはほとんど出来ないと聞きます」


『えぇ……それはつまらんのう。観光地ならではの出店とか、わしけっこう楽しみにしておったのじゃが』


 特に肉の出店じゃな!その土地にしか生息しない獣や鳥の肉を、伝統的な調理法や地元の秘伝の味付けで楽しむのが旅行の醍醐味。

 じゃがそれが出来ないとなると……つまらなそうじゃ。


『その神聖な大樹というのは、そんなに大事なものなのか?』


 先ほど遠目に薄っすら見たとき、確かに迫力は感じたが、人の出入りを制限するほど重要なものとは思えん。


「あの大樹はエルフにとっては何よりも大切な存在だとか。おとぎ話のモデルにもなっておりますしね」


『おとぎ話…………ああ!思い出したぞ!確か、人間族の若きオスがうっかり神聖なる大樹に近づき不老不死の身となってしまう話じゃったか?』


「ええ、不老不死になったオスを王女様が勇敢にオスを救い、祖国に持ち帰って繁栄へと導く。その栄えゆく様子を、オスとたくさん作った子供たちに囲まれながら穏やかに見守る――まるで夢のような、温かくて希望に満ちたおとぎ話です」


 ラミィの説明で、朧げだった内容が次第に鮮明になり完全に思い出す。ここはあの絵本の場所じゃったのか。


「昔寝る前によく読んでもらってましたね。懐かしいです」


『毎回ラミィがわしの体に巻きついてきて、苦しかったのう』


 目が覚めたら全身鱗の痣だらけだったのは、ちょっとトラウマだがな……


『まぁ、あれが大切な存在なのは理解した。だが、それならおとぎ話のモチーフとして活かせば、良い観光資源にもなりそうじゃがのう』


「それには理由があります。昔多くの人間が“おとぎ話の大樹に触れれば不老不死になれる”という噂を信じ込み、こぞって森に押しかけてきたそうです。中には大樹を伐採しようとする者もいたとか……」


『なるほどのう………厳しいルールや規律にはそれ相応の理由があるということじゃな』


 わしたちもケンちゃん吸いの回数にはきちんとルールを設けておる。それを守らなければ、あっという間に大混乱になるからのう……まぁ、よくわからない木よりケンちゃんの方が100倍大切じゃが。


「一応、エルフ側も“不老不死なんて根拠のない作り話だ”と正式に否定していますが、何百年たった今でも出入りは厳重なままです」


『百年も前のルールを頑なに守り続けるとは、さすが変化を嫌うエルフらしいのう』


「その一方でダークエルフたちが比較的に活発なのは文化の違いなんでしょうか?」


『さぁな……まったく大樹だか何だか知らんが、不老不死になれないのなら、今さらそんなものに興味を持つ者などおらんじゃろうに』


「そうですか?私は結構楽しみですよ。樹齢1万年以上の木なんてなかなか見れませんからね」


『チッチッチ!観光地なんてのは、結局うまい飯があるかどうかがすべてじゃ。後はご当地交尾本も気になるところじゃが………エルフには期待できそうにないのう』


コンコン……


「お風呂の準備ができました。入られる際はお声かけくださいませ」


 ラミィと談笑している最中、ふすま越しに若いエルフの声が聞こえる。


 わしをここに連れてきたフィーリアとは違う声じゃな……さてはあいつ帰りおったな?


『さて、お風呂に入る前に一人用の交尾グッズを隠しておくとするかのう~』


「結局持ってきたんですね……あれ」


「仕方なかろう!運悪く来週には満月があるのじゃから。ケンちゃんを襲うよりかはましじゃ!」


 こればっかりは本能なのだから、わしが責められる筋合いはない!


「だとしてもちょっと量が多すぎません?木箱丸々一個使ってるじゃないですか。あんまり一人でばかりやってますと、ケンちゃんに変態って思われて嫌われますよ?」


『うるさい!うるさい!ラミィはあの苦しさを知らんから、そんなことが言えるんじゃ!これは立派な種族差別じゃ!』


 ジタバタジタバタ

 

「はいはい、謝りますのでそうジタバタしないでください……ちゃんいつも使っている監禁室の代わりを手配してもらってますので」


「おう!ならさっきの発言は許すことにする!……あとはご当地の交尾本があったら完璧だったんじゃがなぁ。誰か探してきてくれないかなぁ(チラチラ……)」


「それはいい加減諦めてください!」


 ちなみに、ゴンはケンちゃんと一緒に裸でお風呂に入ったらしい。全くもって羨ましいのう。


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