閑話 我が名はまるちゃん。王である 後編
ケンちゃんと追いかけっこを終えたその晩。楽しい余韻がまだ体に残る夜に水を差すように――それは起きた。
「(あ……ぐ……助け…………て)」
視線の先には、力なく地面に伏したケンちゃんの姿と、我にしつこく構っていた2匹のオスの姿。ケンちゃんは肩を小刻みに震わせ、今にも息絶えそうである。
「貴様ら我の番に手を出すとは……その愚行に対する覚悟はできておろうな!オスだろうが容赦せぬぞ!」
そのあまりにも痛々しい姿に、もはや言葉で制するなどという生ぬるい手段では怒りが鎮まりそうにない。
「違うんですまるちゃん様~!この子がまるちゃん様とルナ様の匂いをプンプンさせながら私たちの前を堂々と歩いて煽ってきたんですよ~。これは明確な敵対行為ですぅ~」
『そうだそうだ!それに、新入りのくせに私たちへの挨拶もないし!あまつさえ私のお気に入りのおもちゃを踏みつけて、そのまま投げやがったんだ!ちょっとチヤホヤされたくらいで、自分が偉くなったと調子に乗ってるんです!これは必要な教育なんです!』
我がふたりの前に立ちはだかると、目を泳がせながら取り繕うように言い訳を並べ始める。
「そ、それに〜この子が番だなんて納得できません~!私と犬っころのどちらかと子作りするって、この前決めたじゃないですか~!」
『まるちゃん様も、こんな奴を庇ってないで目を覚ましてください!』
必死に媚びを売るようにすり寄ってくる。その目は救いを乞うようで、ただただ気味が悪い。
「やかましぃ!王である我がこの者を番にすると決めたのだ!ならばこのオスは我を孕ませる義務がある!もし反論意見があるというのなら……我を倒してみせよ!」
闇の中で鋭い牙を光らせ、我は静かに臨戦の構えを取る。
せめて我の番を名乗るつもりであれば、一矢報いようという意思くらいは見せてほしいものだ。
「どうした?二人同時でも構わぬぞ?そのほうが遊び甲斐があるというものだ」
グイ……
『ぐぬぬぬ……ケンちゃん!よくもやってくれたわね!覚えてなさいよ!次は絶対にただじゃおかないんだからっ!』
ザザッ.....
ふ、近づいただけで尻尾を巻いて逃げ出すと……なんと情けない。だから貴様らはだめなのだ。
強者を前にして一歩も引かなかったケンちゃんの覚悟を少しは見習うのだな。
「おい、大丈夫か」
力なく横たわるケンちゃんに優しく問いかける。その後、せめて傷ついた身体を休ませてやろうと、そっとその身に覆いかぶさった。
我がぬくもりを通して、少しでも安心してほしい――そう願っての行動だ。
「(せめて……ハムスターさんだけでも逃がさないと)」
ガシ!
「じっとしておれ。今、我の体液をもってその傷を癒してやろう。あの場で怯まずに立ち向かったそなたの勇気──我は確かに見届けたぞ」
ペロペロ……ペロペロ……
我は舌に唾液を含ませ、ボロボロになった背中を優しく舐めまわす。
ほんのり甘く芳醇な味わいが舌を刺激し食欲と性欲が混ざった感情が湧いてくる。やはりこいつは極上のオスだな♡
「弱き身でありながらも、民草を守らんと立ちはだかるその心意気。ますます我の番に相応しい!やはりそなたこそ我が運命の相手に違いない!」
ペロペロ……ペロペロ……
傷を癒やすのと同時に、ケンちゃんの全身へと我の匂いを刻み込んでゆく。
これからは、毎日欠かさず我の存在を染み込ませてやろう。
そうすれば、他の者どもも自然と察するはずだ――そなたが我の所有物であるとな。
「ハムリンも実に大儀であった。我が番を命懸けで守り抜いたその勇気、誠に見事である。褒美としてそなたの傷も癒してやろう」
ペロペロ……
小さな体にそっと寄り添い、我は労わるように、傷口を舐めてやる。
「(守ってくれるの?)」
「ふ、そんな心配そうな顔をするでない。そなたは我が選びし番なのだ。我がそばにいる限り、誰にも手出しさせぬことをここに誓おう!だから、そなたは何も考えずただ我の横で笑っていれば良いのだ!」
我はケンちゃんをしっかりと腕に抱きしめ、その耳元でプロポーズの言葉を言い放つ。
この地を統べる王として、ただ一人の伴侶として――この子は何があっても守らねばならぬ。
「だから絶対に我の元から離れるでないぞ♡我が夫よ♡他のメスに尻尾を降ったら無理やり襲ってやるからな♡」
そう忠告してやったに……
「(ゴンさ~ん。かゆいところはないですか~)」
なでなで……
「あ~♡ほんまケンちゃんは手淫がうまいわぁ。いい加減あんな愚王じゃなく、わしにその子種を恵んでくれんやろか?こっちはもう身も心も、すべてを捧げる覚悟は出来ているんやで?」
なでなで……
「お”♡耳の中は敏感がからやめ……ああ♡」
なでなで……
「はぁ……♡はぁ……♡いつか絶対化けて交尾してやるさかい!覚悟するんやで!」
なでなで……
我が目を覚まして最初に飛び込んできたのは、我の番に群がる、節操なきメスどもの姿だ。
幾度となく忠告を与えたにもかかわらず、それでもなお引く気配を一向に見せない。
中でもあの狐には心底うんざりする。ほんの一瞬目を離しただけですぐさまいちゃつきやがって……
「グルルルルルル……」
だが、なにより一番我の怒りをかき立てるのは他ならぬケンちゃんの態度だ!
他のメスに近づくなと、あれほど言い聞かせたというのになぜそれを守らぬ!
あろうことか、たった一切れの肉ごときで、あんな体を売るような真似をするとは……!
もはや、王の番であるという自覚が足りないどころの話ではない!それ以前の問題だ!
「(今日も素敵なダンスをありがとうございます)」
……それに先ほど、鳥どもの求愛ダンスを笑って受け入れておったな?
なぜだ!?奴らの目に宿る欲望を見ていないのか?
涎を垂らして今にもそなたに飛びかかろうとする邪悪な笑みがくっきりと浮かんでおるのだぞ!?
これではいつ襲われて、慰みものにされても文句は言えぬ!
「もう我慢ならん!我の番というのを身体にわからせてやる!」
「(あ、まるちゃんさんおはようございます……ってうわぁ!)」
その言葉を言い終えるよりも早く、我はケンちゃんの体に馬乗りになる。
クンクン……
「おえぇ……おい!なんだこの臭い匂いは!うっぷ……気持ち悪い。他のメスの発情匂やマーキング匂が全身に染みついてるではないか!」
ケンちゃんの全身からは、甘ったるい匂いが混ざり合い、吐き気を催すほどの強烈なマーキング臭が20種類も漂っていた。
まるで何層にも何層にも塗り重ねたような濃密な匂いは不快以外のなにものでもない。
我の番なのに……我の所有物なのに!
「ペロ……上書きしてやる!ペロペロ……おえっ、あやつら、顔にも匂いこんなにも臭い匂いを付けよって!今度は我の匂いが二度と消えないよう頭からつま先まで舐めてやる!」
我は顔中を執念深く舐め回し、首筋には何度も何度も嚙みついてマーキングを施す。
もそもそ……ガシッ!
「こら、逃げるでない!どうやら、そなたはまだ自分の立場がわかってないようだな!!!」
バリバリ!
我は逃げようと身をよじるケンちゃんの体をガッチリとおさえて、鋭い爪で下半身を覆っていた布をためらいなく引き裂いた。
「ふぅ……♡ふぅ……♡」
相変わらずイライラとする匂いを漂わせよって!
こんな時まで我を誘惑するとは……そなたはどれだけ淫乱だと気が済むのだ!
「わからせる♡2度と浮気ができぬようにしてやる♡」
ベリベリベリ……
「(ぎゃああああああああ!)」
「騒ぐな!そもそも、この事態を招いたのはそなたが我の忠告を無視したのが原因だろうが!我の寵愛をしっかり受け止めて反省しろ!」
バチンッ……
最後に、伸び縮みする布を引き裂き、ついにケンちゃんは我と同じ、ありのままの姿になる。
そもそも、こんな布で体を隠すこと自体が異常なのだ!
我の番ならば、何も身につけずにいつでも交尾できるようにしているのが常識だろう!
「今度またこれを身に着けていたら必ず引き裂いてやる!そなたは永遠にこの格好でいろ!これは王命である!」
モワーン……
「ん?そなた今何かしたか?」
いざ交尾となったところで、ほんの一瞬、視界に薄い霞がかかったような違和感が生じる。
目をこすって視界を整えると、我に馬乗りにされていたケンちゃんが消え、いつの間にか壁際に移動していた。
「まるちゃんさ〜ん。あなたの愛で僕を包み込んで欲しいの~♡お・れ・い・に、ここから出る僕の愛情をいっぱい受け取って~♡」
「ッ!!!」
ケンちゃんは、我の目をしっかりと見つめながら、両手を広げて交尾のお誘いをしてきた。
「そうかそうか!ついに我を受けいれる覚悟が出来たか!ふははは!では、遠慮なくお主の子種を搾り取ってやろう」
ガシッ!と強く掴みかかり、我は一気にケンちゃんを押し倒した。
まるで空気を掴んでいるかのような力量差に、ケンちゃんの体が地面に沈む。
「ふぅ……♡ふぅ……♡気絶してもやめるつもりはない。我を誘ったのそなただ。後悔するでないぞ♡」
我が名はまるちゃん。王である。
パンッパンッ!……
いずれはケンちゃんと多くの子供を持ちこの地を発展させる者。
パンッ!パンッ!パンッ!……
そして今日はケンちゃんと交尾をした記念すべき日である!
「コンwwwコンコンwww」
毎日更新から月曜日~金曜日の更新にします




