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第4話 体を拭いた使用人は3日間気絶した


『おおおお、おお、オスが!人間族のオスがわれの部屋にいる!あばばばば』


「ルナ様、お、落ち着いてください!ここは私が対応いたします!」


 そう冷静な態度を装ってはいるものの、ラミィ自身も動揺を隠しきれておらず、尻尾が『ブンブン』と揺れている。


 わしの背中で風を切る音が聞こえてきてちょっと怖い。


『落ち着けと言われても無理な物は無理じゃ!人間族のオスなんて交尾本でしか見たことないんだぞ!もしかして、今日ママになってしまうかもしれなんだぞ!』


「それは私もです!ですが我々だけでもしっかりしないと、あれがもっとひどくなりますよ」


 ラミィは扉を少し開き、廊下でざわつく使用人たちを指さした。



===================



「ちょっと!あんた!なに人間族のオスが落とした泥をタッパーに保存しているのよ!私に寄こしなさい!」


「そっちこそ!オスの体を拭いたタオルをこっちに寄こしな……!あああぁぁぁ!!!こいつタオルを食べやがった!」


「もがもがもが………(あ~苦みの中に芳醇に香る匂いが最高!これがレストランで出されたら星3つの評価をあげちゃう!)」


「ぐぬぬぬ!かくなる上はたった今集めた天然の泥をお湯で溶かして……(ごくごく!)美味しい!これが夢にまでみたオス汁………あれ急に眩暈が(バタン!)」


「ルナ様!解雇されてもいいです!そのオスを見せてください!40秒で終わらせますのでその子との子供を作らせてください!」



===================



バタバタバタバタバタバタ!ガシャーン!



 混乱を最小限に抑えるため、人間族のオスの存在は限られた者のみに伝えていた。


 しかし、その目論見は大きく外れ、城内はすでに軽い混乱状態に陥っている。廊下には慌ただしく行き交う使用人たちの姿が絶えず、この様子では噂が広まるのも時間の問題じゃろう。


「ふにゃ……?……ふにゃ…ふにゃぁ………………ふにゃ!ふにゃぁ!」


『お、おい!目が覚めたぞ!ど、どどどどうすればいい!』


 我が城の惨状を嘆いていると、助け出した少年は眠そうに目をこすりながら目覚める。


 親でも探しているのだろうか、心配そうに周囲をきょろきょろと見渡していてとても可愛いらしい。


「ふにゃふにゃふにゃふにゃふにゃ!ふにゃふにゃふにゃふにゃ」


 そして私たち二人をじっと見つめた後、少年は自分の置かれている状況を理解したのか、こちらに向かって頭を下げて何かを伝えようとしていた。


『な……なんて可愛いんじゃ♡鳴き声もふにゃふにゃ言ってて愛らしいのう。よしよ~し……スライムに襲われて怖かったんじゃな~?これからはお姉さんがちゃんと世話してやるからのう♡』


なでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでな……………べチン!


『あいた!なにすんじゃ!』


 わしが至福のなでなでタイムを堪能しておったというのに、突如ラミィが頭をパシンと叩いてきた。


「はぁ……あれを見てください。ルナ様の力が強すぎておびえてるじゃないですか」


『なぬ!』


 慌てて少年の方を見ると、嫌だったのか、頭――特にわしが撫でた部分を執拗にさすっておる。


『ぐ……わしとしたことが余りにも可愛すぎてついやってしまった。大丈夫か?わし嫌われてないか?』


「ふにゃふにゃ!」


 拒絶されていない心配していると、少年はこちらに向かって変なポーズを取りながら、またも『ふにゃふにゃ』と意味不明なことを言い始めた。


「ふにゃ!」


 パン!


 最後は、目の前で両手を勢いよく叩いていたが何の意味があるのだろうか?


「この仕草はなんでしょう……威嚇かなにかでしょうか?」


『なっ!』


「もしかすると……ルナ様が雑に触られたせいで外敵と認識したのかもしれませんね」


『ち、違うのじゃ!傷つけるつもりはなくて、可愛かったからつい夢中になってしもうただけなんじゃ!うぅ………』


  取り返しのつかないことをしてしまったと深く後悔の念に苛まれ、わしは地面にうなだれた。


 ぐぬぬぬ……今すぐこの腕を切り落としたら許してもらえないだろうか。


「ふにゃふにゃ!」


「それにしても、この子と言葉が通じないのは変ですね。人間族の言語と我々魔族の言語は同じはずですが……」


 ラミィの指摘通り、この子が話す言葉を我々は理解できない。


 そもそも、われには『ふにゃふにゃ』と鳴いているようにしか聞こえないし、これで本当に意思の疎通が出来るのか疑問だ。


『もしかしたら、()()()かもしれんのう……なにかの拍子で人里から離れてしまい野生の魔物に育てられる。魔王軍にもそういうはぐれが何人かいただろ』


「その可能性はありえますね。そもそも発見されたのが森の入り口ではなく中腹だったこと、さらにこの周辺に人間族の里がないことを考えれば、理にかなった結論だと思います」


『じゃろ?』


「しかし、それならば育ての親である魔物は一体どこに行ったのでしょう?見つけた時にはそれらしき姿は見当たりませんでしたが……」


『おおかた、別の魔物に殺されたんじゃろうな。あの森は日々勢力が変わるほど厳しい環境じゃ。よしよし可哀想にの~こっちにおいで~ここは安全でちゅからね~』


 わしは姿勢を低くし、手のひらを広げて見せる。そして相手に威圧感を与えぬようできる限り柔らかな声で語りかけた。


「ふにゃ!!!」


 しかし、まだこちらを警戒しているのかこちらに歩み寄る様子は気配はない。


 く……ファーストコンタクトがどれほど重要か分かっていたのに、あまりにも魅惑的な姿に判断が鈍ってしまった!わし一生の不覚じゃ!


「ふむ………もしこの子が魔物に育てられた()()()だとしたら、人間扱いをするよりも最初は魔物のように、ペットとして接してあげた方がストレスなく過ごせるかもしれませんね」


『一理あるのう。森で育ったのなら、このツルツルの床を歩くだけでも相当なストレスがあるはずじゃ。しばらくは抱っこして移動した方がよいかもしれんのう』


「食事にも気を付けたほうがいいとはおもいますが、そもそも人間族は普段何を食べるのでしょうか?」


『さぁ?でも野生で育ったのなら、とりあえず生肉は食べるじゃろう』


 バンバン!バンバン!


 少年の扱いについて考えていると、赤ん坊の頃から育てているペットのまるちゃんが、地面をバンバンと叩き始めた。


「ぐるるるる……がう!」


 これはご飯を催促する時に良くする行動じゃな。きっとラミィの"肉"という言葉に反応したのじゃろ。


 むふふ、まったくまるちゃんは食いしん坊じゃな〜。


「よし!まるちゃんもお腹を空かせておるようじゃし、一旦みんなでご飯にするかのう!」


 あれこれ考えるよりも、ここはお腹いっぱい食べさせて、ここが安心できる場所だということをこの子に教えてあげないとな!


 ひょい!


 暴れる少年を無理矢理抱きかかえ、ラミィと腹ペコなまるちゃんと共に食卓へと向かうのだった。


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